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もうじやのたわむれ 106 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 そうなると前の審問室にいた審問官と記録官の気安さが、妙に懐かしくなると云うものであります。閻魔大王官にしても、未だそんなに会話を交わした事はないのでありますが、仄見せるその愛嬌たっぷりの仕草とか、拙生に話しかける時の気楽な口調とかは、お地蔵さんの過剰にも見える威厳で鎧おったもの云いぶりやら、態と取りつきにくくしているような無愛想さに比べれば、全く以って好印象云うべきものでありましょう。
 極楽省の官吏なんと云うものは皆、このお地蔵さんみたいなタイプが多いのでありましょうや。こう云った連中が統べる省は、なにやら如何にも住みづらそうだと拙生は考えるのでありました。まあ、他の多くの極楽省の官吏は違っているのかも知れませんが。
「ここでまた、なんで八王子市と長崎市を例に出したのか、なんと云う下らない質問をしてはならんぞ。単に今ふと思いついただけなのだからな。お前さんはこちらの言葉の瑣末な部分に妙に拘って、肝心な内容をちゃんと聞こうとしないところが間々見受けられるが、それは改めた方が将来の身のためだぞ。一応老婆心から云っておくが」
 お地蔵さんは拙生の心中を読んでそう窘めるのでありました。お前さんの考える事なんぞはとっくにお見通しだと、先回りして拙生を怖れ入らして、自分が如何に隙のない、侮り難い存在であるかを拙生に暗にアピールしているようであります。ま、ご指摘の件はその通りなのでありましたが、拙生は恐れ入るよりはげんなりするのでありました。
「居住区域の中に、そこに住む霊達の衣食住環境とそれに職が完備しているわけですね?」
「そう云う事である」
「と云う事は、自分の住んでいる居住地区の中で、総てが完結出来るようになっているのだから、自由に他の地区に移動したりは出来ないのですか?」
「移動は自由である。一週間以内の宿泊を伴う旅行も。違う居住地区に親類が住んでいる場合もある故にな。しかし居住に関しては、身分や家格によって居住地が決められている以上、社会秩序維持の観点から制限があるのは当然の事である」
「辺境に住む霊は生涯、辺境で自分の一生を送るのですか?」
「そんな事はない。極楽省に貢献して身分や家格を上げたり、我々官吏の覚え目出度い事を大いに行えば、蓮の花の池に近づく事も出来る。本人の、いや、本霊の努力次第である」
「大いに出世された霊の例も、多々あるのですか?」
「霊の例? まあそれはいいとして。・・・多々、と云う程ではないが、まあ、ある」
「要するに大多数の一般庶民、いや庶霊は、生まれた地域で生涯を終えるのですね?」
「それが一般的と云える」
「ふうん」
 拙生は顎を突き出して口を尖らせるのでありました。「審問室で、極楽省と地獄省間の旅行は出来ると聞いてきましたが、極楽省内の居住地区間の旅行でも一週間以内と云う制限があるのですから、地獄省への旅行となると、もっと厳しい制限があるのでしょうね?」
「地獄省に旅行する事の出来る霊は、蓮の花の池を中心とする同心円の二重目までの居住地区の霊に限られておる。そこまでが優等霊居住区となるからな」
「それより外側に住む霊は、地獄省への旅行の自由はないのですね?」
(続)
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