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枯葉の髪飾りLⅡ [枯葉の髪飾り 2 創作]

「いや、馬鹿ちんにも色々あるて云うことくさ」
 安田が島田の方を見ないで、薄ら笑いを頬に浮かべて云います。
「冗談じゃなか。第一あたしは馬鹿ちんじゃなかけんね。自分のことは棚に上げて、単純で能天気で鈍感で、そいに早とちりで口足らずで、見るからに軽薄そうでお調子者の安田の馬鹿ちんに、そがんこと云われとうはなか。」
「随分とまあ並べてくれたけど、そう云うオイの馬鹿ちんも罪のなか部類ぞ」
「そうでもなか。安田の馬鹿ちんの言葉はいちいち気に障るけん、少なくともあたしに対しては、罪はあるとけんね。根拠も洞察力もなかくせして、なんば都合のよかことばっかい云いよっとかね、この大馬鹿ちんは」
「お前等、馬鹿ちん同士で、なんの云いあいばしよるとか」
 隅田が島田と安田の攻防に割って入るのでありました。
「あたしは馬鹿ちんじゃなかと」
 島田が隅田に食って掛かります。
「まあまあ、そがんプンプンするな」
 隅田は両手を前に出して島田を押し返すような仕草をします。
「安田の馬鹿ちんと、あたしば一緒にせんでもらいたかよね」
「オイも島田の馬鹿ちんとは、一緒にされとうはなか」
 安田も云うのでありました。
「お、馬鹿ちん同士、ここは意見の一致しとる。馬鹿ちんの共同戦線でオイば攻めるな」
「まったく、失礼かヤツの多かね、ウチのクラスの男共は。あたしは安田の馬鹿ちんなんか徹底的に軽蔑しとるとけんね。それを共同戦線とか云われるだけで腹の立つ」
「オイから云わせれば、馬鹿ちん同士、実はそれ程仲の悪かわけじゃなかて思えるとけど」
「まあだそがんことば云うかね。あたしは馬鹿ちんじゃなかて云いよるやろう。安田の正真正銘の馬鹿ちんと一緒に並べんでもらえる」
 島田は大層な剣幕で云いつのります。
「オイも島田と一緒くたにされると、プライドの傷つくぞ」
 安田が云います。島田はその安田に向かって歯を剥き出して、まるで虎かライオンが敵を威嚇するような表情をして見せるのでありました。
 この、妙ちきりんな方向へ会話が進んだことよって、バス停に向かって歩を進める我々の頭から、大和田の影や拙生の蛮行の痕跡はなんとなく掃われてまっているのでありました。巧まずして、いやひょっとしたら安田が巧んでそれに隅田と島田が敏感に乗って、三人で重苦しい雰囲気を払底しようとしてくれたのかも知れません。重苦しさを招来させてしまった当事者の拙生は、この三人に申しわけない気持ちで一杯になるのでありました。
 しかし拙生だけは秘かにまだ胃の底に鉛が張りついているような気分でありました。大和田の残していった「欠陥品」と云う言葉が、どうしても拙生の頭から離れてはくれないのでありました。今頃になって拙生は懲りもぜず、こんな言葉を吐いた大和田を自衛の意味でも、もっと苛烈に殴っておくべきだったかなと妙な後悔をしているのでありました。
(続)
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