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枯葉の髪飾りⅩⅩⅩⅨ [枯葉の髪飾り 2 創作]

「どがん、佳世?」
 島田はもう一度腰を屈めて吉岡佳世に聞くのでありました。
「大丈夫。判った。手伝うよあたし」
 吉岡佳世が島田にそう返事します。
「有難う。そしたら体育祭が終わったら、運動場のステージの所に来とってね」
 島田はそう云って腰を伸ばし、安田の方へ目を向けてなにか云いたそうな素振りを見せるのでしたが、別に憎まれ口を上乗せすることもなくそのまま立ち去るのでありました。
「まったく、入学した頃から変わらんばってん、可愛気の欠片もなかヤツぞ、島田は」
 安田がそう云って舌打ちをします。安田と島田は一年生の時からずっと同じクラスだったのでありました。
「しかし、そがん風に水と油のようにとしとるけど、案外て云うか往々にして、そう云う同士はお互いに安からず思うとるとかも知れんぞ、本人たちも普段は気づいとらんし、思いも寄らんことかも知れんばってん」
 隅田が云うのでありました。
「やめろ。そがんことなんか絶対、なか。選りに選って島田とは、絶対になか」
 安田が強調します。
「いやいや、そうやってムキになるところば見せられると、益々オイの見立てに狂いのなか証拠のごたる気のしてくるばい」
 隅田が笑いながら自説に自信たっぷりと云った風に頷くのでありました。安田は口を尖らせて隅田を睨みます。吉岡佳世がくすっと笑うのでありました。
「こら、吉岡、笑うな」
 安田がそう云うと吉岡佳世はもう一度、今度は口に手を当てて笑うのでありました。
「おい安田、それ以上なんだかんだと抗弁したら、益々墓穴ば掘ることになるけんね」
 拙生が云いますが、拙生の顔に隅田と同じ種類の笑いが浮かんでいるのを見咎めて、安田は一層口を尖らすのでありました。
 昼食の時間が過ぎて、そろそろ運動場に集まって午後の競技を始めるぞと校内放送があったので、我々は弁当を片づけて寄せていた机を元に戻し、校庭の方へ向うのでありました。なんとなく拙生は吉岡佳世が隅田や安田と一緒だったこともあるのでしょうが、いつもより口数が少なくて表情も冴えないことが少し気になっていたのでありました。普段から彼女はそんなにお喋りの方でもなく表情が豊かな方でもないのでありますが、それにしても時々その横顔を窺うと、無表情でいる時がより多かったような気がするのでありました。単なる無表情であるのなら別に拙生は危惧はしなかったでありましょう。しかしなんとなくその彼女のその無表情は、実は身体の大儀さを表明するある種の表情であったような気がしていたのでありました。先程二人で居た時に疲れたと珍しく自分から彼女が口にしたことが、どこか拙生の気持の内壁に実はずっと引っかかっていたのであります。
「大丈夫か、なんとなく体のきつかとやなかか?」
 拙生は運動場へ向いながらそう彼女に聞くのでありました。
(続)
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