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あなたのとりこ 740 [あなたのとりこ 25 創作]

「ところで均目君の事だけど、・・・」
 那間裕子女史は話頭を曲げるのでありました。語調から、ケニア旅行の話しよりも、その均目さんの話しの方がこの電話の本題かなと頑治さんは思うのでありました。
「均目君がどうかしたんですか?」
「この前ちょっと大学時代の先輩と話していたら、片久那さんの話題が出たのよ」
「その先輩と云う方は、片久那制作部長とは前からのお知り合いなんですかね?」
「そうじゃなくて、最近、仕事で知り合ったと云う事なの」
「ほう、仕事で、ですか」
 頑治さんは意外そうな口調で云うのでありました。
「そうなの。あたしが大学時代に入っていた冒険部の先輩で、今は比較的大手の出版社で雑誌の編集者として働いているのよ」
 那間裕子女史が大学時代に冒険部に入っていたと云うのは、今初めて耳にする事でありました。そんな話しはこれ迄の付き合いの中で、全く聞いた事がなかったのでありましたがそれは兎も角、その比較的大手出版社で出している雑誌と云うのは、女性向けのファッションとか化粧品とか、それに気の利いた生活雑貨の紹介とか、国内と海外を問わず街歩きの記事等を掲載するもので、そこそこ世間に名前の通った雑誌でありましたか。
「その雑誌で片久那制作部長を取り上げたんですか?」
「そうじゃなくて、旅行関連の記事の中に載せる地図とか図版の製作依頼で、或る地球儀の会社の社長から片久那さんを紹介されて知り合いになったようなのよ。先輩の方は、その地球儀会社とは雑誌の中で事務雑貨の特集をした時に知り合ったようなの」
「ああ、そう云えば片久那制作部長は、贈答社の仕事関連で知り合ったどこだったかの地球儀の会社の社長に随分気に入られていて、そこの仕事を一応贈答社として受けていましたね。片久那制作部長は贈答社を辞めた後も、その地球儀会社の社長とは昵懇の仲が続いていて、その社長の紹介で那間さんの先輩の会社に紹介されたんですかね」
「そう。まあ、そんなところね」
 那間裕子女史は頑治さんの察しの良さに満足したように云うのでありました。
「で、ね、つまり片久那さんは地図の製作とかどこかから依頼された記事の作成とか、そんな事をするプロダクションを自分で立ち上げたようなの」
 それは片久那制作部長から既に聞いていた事でありました。後は自費出版本の編集とか制作とか、片久那制作部長のこれも大学時代の知り合いの伝を頼りに始めた仕事のようでありました。それが愈々軌道に乗って、会社を興して、そこに頑治さんも、既にきっぱり断ったのでありましたが、来ないかと誘われたのでありました。
 と云う事は推測すると女史は、その片久那制作部長の興した会社に何故か均目さんが居る事を、つまりその先輩とやらから聞き知ったと云う事なのでありましょう。
「へえ、片久那制作部長はそう云う会社を創業したんですね?」
 頑治さんは恍けてそう訊くのでありました。
「そう云う事ね」
(続)
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