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あなたのとりこ 731 [あなたのとりこ 25 創作]

 夕美さんは頑治さんの次の職探しの首尾について訊いたりするのでありました。
「どう、その後の就職活動は?」
「うん、まあ、未だ何となく尻が重くて」
 頑治さんは何となく済まなさそうに小声で云うのでありました。
「会社を辞めるに当たってあれこれ気苦労があったみたいだから、ちょっと英気を養うと云う意味も含めて、のんびり仕事探しするのも良いかも」
「いやあ、そんなにしんどい退社劇でもなかったけどね」
「そう云う事なら、もう少しこっちに居ても良かったわね」
「ま、失業中の身の上だから、そんなに長くそっちに滞在する資力もないし」
「でも、そっちに帰ってのんびりしているのなら、こっちに居ても同じじゃない」
 夕美さんは何となくあっけらかんとした云い草をするのでありました。
「そうも云えるけど、でも、そっちに居るとなると友達に家に厄介になる事になるし、何かと色々物入りではあるからなあ」
「何ならあたしが援助してあげても良かったのに」
 これは夕美さんが、どうせ後々頑治さんと一緒になる、と云う前提を以ってそう云ってくれているのでありましょうか。
「いや、それは何だか、・・・」
「別に気兼ねは何も要らないんだからさあ」
「それはそうかも知れないけど、しかしまあ、何と云うのか」
「男としてのプライドが許さない?」
「別にプライドを云々する程の男ぶりは持ち合わせていないけどね」
 これは態々ここで夕美さんに改めて云う程の事ではなく、夕美さんも疾うに判っている事でありますか。慎に以って面目ない限りであります。
「ううん、あたしにとってはなかなかのものよ」
 夕美さんはそう持ち上げてくれるのでありましたが、これは持ち上げると云うよりは単なる冗談とか軽口として受け取るべきでありますか。
「ところで、お母さんの具合はその後どうなんだい?」
 頑治さんは話題を変えるのでありました。
「病院に入院したら、少しは元気になった感じがするけど、でも相変わらず食欲が全然なくて、意欲的に物を食べるってところはちっともないわ」
「でも少しは元気になったのなら、ちょっとは安心かな?」
「要するに栄養注射とか、看護が行き届くから元気になったように見えるだけで、快復していると云う事じゃないんだと思うわ」
「夕美も、心配だなあ」
 そうであるなら、頑治さんが向こうにもう少し長く滞在し続けて、そんなに大した助けにはならないかも知れませんが、夕美さんの傍に居てあげて、少しは夕美さんの気持の励みになるべきだったのかも知れないと思うのでありました。
(続)
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