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あなたのとりこ 730 [あなたのとりこ 25 創作]

「均目君と唐目君は同い歳で気も合うようだったから、会社を辞めても付き合いが続いていると思っていたけど、そうでもないのかな」
「会社の中では歳が同じだから親しくしていましたけど、一端会社を出たら、プライベートではそれ程親密ではなかったですよ」
「休日に一緒に何処かに出掛けるとか、そう云う付き合いではなかったのかな?」
「なかったですね。均目君のアパートに行った事もないですしね」
 まあ、均目さんの方は那間裕子女史絡みで頑治さんのアパートに来た事はあるのでありましたが、これはここで敢えて袁満さんに話す必要はない事でありました。
「ふうん、そんな風の仲だったのか。傍からはもっと親密な感じがしていたけど」
「ま、実際はそんなところです」
「那間さんも入れて、よく三人で飲みに行っていたようだけど」
「まあ、会社帰りに時々、ですよ」
「均目君は那間さんとは未だ交流が続いているのかな?」
「さあ、俺にはその辺は判りませんけどね」
 恐らく均目さんと那間裕子女史の仲も、もう元に戻る事はないでありましょうし、この推察も敢えて袁満さんに云う事ではないでありましょう。
「じゃあ、会社を辞めた後は四人バラバラで、近況連絡もないと云う事か」
「そうですね。こうして電話をくれるのは袁満さんだけですよ」
「ふうん、そうか。・・・」
 袁満さんはどこか寂し気に呟いて少し黙るのでありました。
「その内、新宿辺りで一杯やりましょう」
 頑治さんは別に敢えて元気づけるためと云うのではないのでありましたが、袁満さんの寂し気な呟きに対してそう返すのでありました。
「そうだな。今度通う事になった学校の方が落ち着いたら、是非飲もう」
「日比課長の消息なんかも、それに袁満さんと甲斐さんのその後も聞きたいですし」
 頑治さんがこう云うと袁満さんは少し照れたように笑うのでありました。

 その後も頑治さんは未だ本格的に就職活動で忙しく動き回る気が起きないのでありました。暇潰しの上野や浅草、それにアパート周辺の散歩、或いは神保町の古書店や新刊本を扱う本屋巡りなんぞで無為な時間を過ごしているのでありました。またもや刃葉さんに出くわすと云う事はなかったのでありましたが、街角で歳格好の似た人を偶々見ると竟その人が刃葉さんかどうか確かめるように視線を当てたりするのでありました。
 別に刃葉さんの動向が気になると云うわけではないのでありましたが、何となくそう云う事をして仕舞うのでありました。別に出会っても、何もないのでありますけれど。
 偶に夕美さんから電話が掛かってくるのでありました。夕美さんは夏休みに東京に頑治さんと同行出来なかった事を未だ残念がっているのでありました。夕美さんのお母さんの体の具合と云う余儀ない理由であるのは、重々承知しているのでありましょうが。
(続)
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