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あなたのとりこ 720 [あなたのとりこ 24 創作]

「じゃあ先ず、明日の月曜日はどうする? 今云ったように、あたしは休みの日だし、どこか少し遠くにでも行ってみる?」
「そうだな。折角の夏なんだから、海にでも行くか」
「でもあたし、水着持っていないし」
「大学生の時とか、例えば湘南とか九十九里とか行かなかったの?」
「そうね、全然行かなかったわ。行こうと云う気も起きなかったけど」
「ふうん。でも水着なら高校生の時に体育の特別授業で使ったのがあるだろう?」
「いやよ、あんなの」
 夕美さんは眉間に可憐な皺を寄せるのでありました。「とっくに捨てたと思うし」
「実は俺も持っていないから、これからデパートにでも行って買うよ。夕美も一緒に買えば良いじゃないかビキニの水着でも」
「ビキニの水着、ねえ。・・・」
 夕美さんは鼻の横にもこれも可憐な皺を寄せるのでありました。「あたし自信ないし」
「いやあ、夕美だったらドンピシャ似合うんじゃないかな」
「そんな事はないと思うけど」
 夕美さんは真顔で首を横に振るのでありました。「それに、海は日焼けするし」
「日焼けは嫌かい?」
「だって後々シミが出来るもの」
「ふうん、そう云うものかねえ」
 頑治さんは何となく、無関心且つ無頓着そうに頷くのでありました。「海に行くのが気乗りしないとなると、じゃあ、どうするかな、夕美が休みの、折角の明日の月曜日は」
「何だかものぐさだけど、街の中をただブラブラするというのでも良いんじゃない?」
「ブラブラか。まあ、夕美と一緒に居られるならそう云うのんびりも良いかな」
「でも折角久し振りに帰郷したんだし、頑ちゃんとしてはそれじゃあつまらないか」
 夕美さんは自分が出したブラブラ案に自ら疑問を呈するのでありました。「頑ちゃんは帰ったら是非行ってみたい処とかは、別にないの?」
「そうだなあ、・・・」
「何か、特になさそうね」
「まあ、あるような、ないような」
 頑治さんは久々の帰郷で何処か行きたいところはないのか、つらつら考えて見るのでありましたが、頭が茫としてきて何も思い浮かべられないのでありました。まあ、この度の帰郷は夕美さんに逢うのが第一番目の目的でありましたから、要は夕美さんとずっと一緒に居られたらそれで御の字なのであります。ま、それに尽きるでありましょうか。

 夕美さんと一緒に過ごした故郷での一時は、頑治さんにとっては全く新鮮なものでありました。見慣れた何処そこの風景も、横に夕美さんが居るだけでそれは見違えるほどの色彩と光輝に溢れた、大いに心躍るものなのでありました。
(続)
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