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あなたのとりこ 710 [あなたのとりこ 24 創作]

「結局、返事は少しの間待ってくれって云ったのよ」
「じゃあ、明快な返答はしないで、その日は喫茶店を出て別れたんですかね?」
「まあ、そう云う事」
「それで今日迄あれこれ考えてもはっきり結論が出ないから、頼りにはなりそうにないけど一応袁満さんと親しい俺に相談しようとして電話をした、と云う事ですかね?」
「頼りにならないなら、突然こんな電話なんかしたりしないわ」
「俺なんかより均目君辺りの方が気の利いたアドバイスが出来るんじゃないですかね」
「均目君に相談する気は起きないわ」
 甲斐計子女史はきっぱりと云うのでありました。「均目君は実は人が悪そうだから、こんな相談事をすると、屹度面白がるだけだろうし、肚の中であたしの事を笑うだろうし、それは心外だから真面目な相談の電話なんかするもんですか」
「それじゃあ同性の那間さんとかはどうでしょうかね?」
「那間さんに、そんなに親しい感じは元々持っていなかったし、それに那間さんに相談するのは何となく癪だし、こっちも秘かにあたしの事を笑うような気がするし」
「ふうん、そうですかねえ」
「どうやら唐目君に相談したのもあたしの間違いだったようね」
 甲斐計子女史は頑治さんが、自分より均目さんや那間裕子女史の方が相談相手として相応しいのではないかと云った事で、相談されるのを億劫がっているのだと感じたようで、こうして電話した事を後悔するような云い草をするのでありました。
「いや、俺で良ければ勿論相談に乗ります」
 頑治さんは努めて真剣に、且つ不躾にならないように気を遣いながら、相談に乗る事に吝かでないところを伝えるのでありました。
「本当は迷惑なんじゃないの?」
「で、お聞きしますが、甲斐さんは袁満さんと付き合うに於いて、一体何が第一番目の障害だと考えているのですか?」
 頑治さんは仕切り直すように、甲斐計子女史に問うのでありました。
「それはつまり、・・・あたしと袁満君の、歳の差よ」
 甲斐計子女史は片久那制作部長や土師尾常務と同い年で、頑治さんとは十歳の年齢差があるのでありました。と云う事は袁満さんとは九歳差と云う事になるのであります。
「ええと、確か袁満さんとは九歳違いと云う事になるんですよね?」
「そうなるわね」
 甲斐計子女史は何となく体裁悪そうな云い草をするのでありました。
「九歳差と云うのは、別にそんなに重大な障害だとは俺は思いませんけどね」
「そうかしら。・・・」
「そうですよ。それくらい歳の離れた仲は世の中には一杯あるんじゃないですかね」
「あたしはあんまり聞いた事がないわ」
「そんな事はありませんよ」
(続)
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