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あなたのとりこ 704 [あなたのとりこ 24 創作]

「それはもう、前にきっぱり断った事だけど」
「でも片久那制作部長は、唐目君のスカウトを諦めていないようだぜ」
「そう云われても、なあ。・・・」
 頑治さんは困じたように眉根を寄せるのでありました。
「片久那制作部長の新しく興した会社に入ると云う目は、全くないのかい?」
 均目さんは頑治さんの顔を覗き込むのでありました。
「その気はないよ」
「何か殊更の問題でもあるのかい?」
「いやそう云う訳じゃないんだけど」
 頑治さんは首を小さく横に振るのでありました。
「しかし会社を辞めた後すぐに、好都合にも折角片久那制作部長が誘ってくれているんだから、再考してみる余地もありそうなものじゃないか」
「何となく気が乗らないんだよ」
「気が乗らない?」
 均目さんは怪訝な顔をするのでありました。「つまり、はっきりとした理由なんかは何もない、と云う事なのかな?」
「まあ、そうだけど」
 頑治さんは均目さんの顔から視線を外して頷くのでありました。
「だったら考え直しても良いんじゃないか?」
 均目さんは片久那制作部長の意を受けて、彼の人に成り代わって、ここでもう一度頑治さんを熱烈にスカウトしているのでありましょうか。
「均目君は俺をもう一度誘えと、片久那制作部長から頼まれたのかな?」
「ま、そう云う事だよ。もう一度唐目君の気持ちを確かめて来いと」
「どうして片久那制作部長は、そんなに俺を誘いたいのだろう?」
「それは当然、唐目君を大いに買っているからだろう」
「そんなに買われるような覚えは、ちっともないんだけどなあ」
 頑治さんが苦笑するのを見て、どう云う訳か均目さんはここで、変に険のある尖った表情をして見せるのでありました。片久那制作部長の厚意をちっとも解していない頑治さんの不躾と鈍感さに、思わず苛々したのでありましょうか。
「唐目君には片久那制作部長の会社に来る気なんか、全くない訳だね?」
 均目さんは念を押すように訊き質すのでありました。
「気が乗らないのは今でも変わってないよ」
「そうか。判った」
 均目さんはあっさり頑治さんのスカウト話しをここで打ち切るように云うのでありましたが、特段これで不愉快を抱いたような様子はないのでありました。寧ろ頑治さんにはこの頑治さんの返事を聞いて、どこか安堵したような気配すら窺われるのでありました。この場合の均目さんの思いなんと云うものは、一体どう云うものなのでありましょうや。
(続)
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