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あなたのとりこ 700 [あなたのとりこ 24 創作]

「でも傍から見ていると、那間さんはどちらかと云うと均目君より唐目君の方に興味がありそうに見えるけどね。均目君と話している時より唐目君と話している時の方が、目が生き々々しているように見えるよ。これは甲斐さんも前にそう云っていたけどね」
「そんな事は特にないんじゃないですか。それより袁満さんは、そんな事も甲斐さんと二人で居る時に話題にしているんですね」
「まあ喫茶店でコーヒーを飲んでいる時のちょっとした話しでね。もう前の事だけど」
「で、端的に訊きますけど、袁満さんは甲斐さんの事を、歳の差はさて置くとして、どのように思っているんですかね?」
 頑治さんは自分と那間裕子女史の話題を避けようとそう話しを振るのでありました。
「どのように、とは?」
「つまり、好い仲になっても良いなとか、そう云う風に思っているんですかね?」
 そう訊かれて袁満さんは少しどぎまぎするのでありました。
「さっきも云ったように、歳の差十歳と云うのは、俄かにはさて置けない事だよ」
「そうですかね。俺はそんなに重大事だとは思いませんけどね」
「いやあ、でもあれこれ考えると、矢張りかなり大きな要素だよ」
「と云う事は、あれこれ考えた事もある、と云う事ですね?」
 そう訊かれると袁満さんは決まり悪そうに、返す言葉を失ったように口を閉ざすのでありました。しかしここでおっとり沈黙した儘でいると頑治さんの余計な勘繰りを許す事になると考えてか、急いで何か云い繕うべき言葉を探すように目玉を微揺動させるのでありました。まるで土師尾常務の気の弱さを思い起こさせるような仕草でありました。
「いやまあ、竟うっかりそう云う風に云ったけど、別に真剣にあれこれ考えたと云う事ではないよ。変な誤解は止してくれよ」
「そうですか。実は俺は、袁満さんと甲斐さんは全くお似合いのカップルだと、ずっと前から思っていましたけどねえ」
「そうかなあ」
 袁満さんは、そんな筈はないよ、と云うニュアンスを出そうとしてそんな曖昧な返事をものすのでありましたが、しかし頑治さんは袁満さんの目がやにさがっているのをしっかり確認するのでありました。内心満更でもない、と云う感じでありますか。
「甲斐さんだって未だ三十代半ば、と云うところですから女盛りですよ。そんなに袁満さんと不釣合い、と云うものでもないんじゃないですか」
「まあ確かに、二人で話していると年齢差程老けていると云う感じじゃないし、話題も俺とそんなに合わない訳でもないし。・・・」
 おやおや、風向きが微妙に変わってきましたかな。
「偶々甲斐さんの会社に居残ると云う判断と、俺達の退社と云う思惑の違いで変なしこりが出来たみたいだけど、それはちゃんと話し合えば判り合える事柄じゃないですかね。だからそれで甲斐さんとの仲を諦めて仕舞うのは、如何にも癪じゃないですか?」
「うーん、まあ、そうかなあ。・・・」
(続)
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