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あなたのとりこ 699 [あなたのとりこ 24 創作]

 袁満さんはこのところ日比課長とは、何だかしっくりとはいっていないような感じであります。前はあんなに、互いに冗談半分の悪態をつき合う程の名コンビであったのでありましたけれど。まあ、労働組合が結成されて、その組合に対する二人の態度の違いが明らかになった辺りから、どことなく屈託が生まれたと云う感じでありましょうか。
 それに甲斐計子女史に対する態度も変化したような風でありますか。昼休み等、袁満さんと甲斐計子女史が連れ立って何処かで昼食を共にしたり、食事の後始業時間迄喫茶店なんかでコーヒーを飲みながらよく二人で過ごしているようでありましたが、このところそう云う付き合いもさっぱりなくなったようであります。
 袁満さんと甲斐計子女史は、ひょっとするとひょっとする仲、なのではないかと、或いはそうなるのではないかと頑治さんは考えたりしたのでありましたが、もうそのような気配は全く感じられないのでありました。寧ろ袁満さんは土師尾常務も日比課長も出掛けて仕舞って、営業部スペースに二人だけで残されるのが何だか気重のようでもあります。だからこれと云った用もないのに、袁満さんは頻繁に倉庫に遣って来るのであります。
「袁満さんは最近、甲斐さんと食事したりはしていないのですか?」
 頑治さんは如何にも軽い調子、と云った口調で訊いてみるのでありました。
「いやあ、最近は全くないな。一緒に食事するどころか、朝と帰りの挨拶や仕事に関する事以外、滅多に言葉すらも交わさないし」
「那間さんと、袁満さんと甲斐さんが時々昼休みに一緒に歩いていたりするのを見て、案外好い仲なのかも知れない、とか話していたんですけどねえ」
「甲斐さんに昼飯を奢って貰って一緒に会社に帰っていたところを、偶々唐目君と那間さんに目撃されただけだろう」
「いや、偶々ではなく、何度となく目撃しましたよ」
「ああそうだったかな」
 袁満さんは恍けて見せるのでありました。「しかし、好い仲も何も、俺と甲斐さんは十歳も歳が離れているんだから、そんな仲になる訳がないじゃないか」
「いや、その気なら十歳の歳の差なんかは、さしてどうと云う事はないでしょう」
「いやあ、十歳と云う年齢差は結構重大な要素だよ」
 そんな風に袁満さんが云うところを見ると、ひょっとしたら袁満さんは甲斐計子女史と好い仲になる可能性について、結構真剣に考えた事があるのかも知れないと頑治さんは考えるのでありました。それ故に返って事ここに到ると、何だか二人の仲が急激にギクシャクして仕舞ったのだと云う風にも推察出来なくもないでありますか。
「俺と甲斐さんより、唐目君と那間さんの仲はどんな按配なんだい?」
 袁満さんが頑治さんにそう訊き返すのでありました。
「俺と那間さんの仲、ですか?」
 今度は頑治さんが恍けて見せる番でありました。「俺と那間さんと云うより、均目君と那間さんの仲の方が深いんじゃないですかね」
 頑治さんは昨日の事を竟思い浮かべて平静ではいられないのでありました。
(続)
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