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あなたのとりこ 680 [あなたのとりこ 23 創作]

「向こうの、もっとお偉いさんとかが出てきてあれこれ話を聞くとか、今迄見た事のないような顔がそこに一緒にある、とか云う事もなかったんですね?
「うん、横瀬さんだけだったよ」
 均目さんとしてはひょっとしたら党関係の人間迄出て来て、労働争議を唆すのではないかと考えていた節があって、袁満さんのどこかあっけらかんとした報告を聞きながら、見ように依っては少しがっかりしたような表情で袁満さんを見ているのでありました。まあこれは均目さんのあの党に対する、一種の過剰反応、或いは過大評価と云うべきものに類するところでありますか。それ程警戒心を持つ必要は実際ないのでありましょう。
「要するに、この前の決着通りで、変更とかは特にないんですよね?」
 頑治さんが袁満さんに訊き質すのでありました。
「そうね。別段変更はないよ」
「それなら、またどうして袁満さんと那間さんを態々呼びつけたんでしょうね?」
「まあ、念のためにもう一度確認したかったんじゃないかな」
「それなら朝にかかって来た電話で訊けば、それで充分じゃないですか」
「直接面と向かって、再度訊きたかったんだろう」
「それだけですかねえ?」
 頑治さんは何となく釈然としないのでありました。
「本当は会社を辞めるなと再度説得する心算だったけど、あたしと袁満君の如何にもさっぱりしたような顔を見たらその気も失せた、と云う感じじゃないの」
 那間裕子女史があっけらかんと云うのでありましたが、まあそう云う事なら、特段自分が引っかかる必要はないかと、頑治さんは未だ充分納得いかないながらも思うのでありました。横瀬氏は兎に角四人の退社に関しては許容しているようであるし、それをどうこう批判する了見もなさそうだし、そこは多分拗れる気配はなさそうであります。ただ一種の徒労感と云うのか、当て外れのような、そんな気持ちはあるのではありましょうが。
 それなら態々袁満さんと那間裕子女史を呼び出したのはどういう意図からなのでありましょうか。袁満さんの云う単なる再確認なのでありましょうか。それとも那間裕子女史の云うように、説得する気が二人の顔を見たら急に失せたからなのでありましょうか。頑治さんとしてはその辺はどうしても気持ちの上でのモヤモヤが残るのでありました。
「唐目君は横瀬さんが今日改めて、袁満さんと那間さんを呼び出したその意図が、未だちょいとばかり判然としないようだね?」
 均目さんが頑治さんの表情を見ながら訊くのでありました。
「まあ、それはそうなんだけどね」
「俺も同じだよ。何か隠された謀があるんじゃないかと、そう疑っているんだけどね」
 均目さんとしては恐らく、均目さんが云い募るところの、あの党の恐ろしさ、と絡めてそんな疑問を発するのでありました。
「均目君は、全総連の後ろに隠れているあの党への恐怖、と云うのか不信感からそう云うんだろうけど、その辺はそんなに深刻だとは思っていいないけれどね、俺は」
(続)
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