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あなたのとりこ 673 [あなたのとりこ 23 創作]

 袁満さんが均目さんのグラスにビールを注ぎ入れるのでありました。
「まあ、あの政党の内部では、限りなく真っ当で倫理的で強固な意志による諸政治運動、と云う事になるんでしょうけど、それが如何にも世間の常識を無視していて、遣る事為す事が独善的で、薄気味悪く胡散臭く映って仕舞うんでしょうね」
「と云う事は、世間が誤解している、と云う事もあるかな」
「いや、誤解じゃなくて本能的に判るんですよ、あの政党のヤバさが」
「でも、他の政党によくある薄汚い金の匂いはあんまりしないかな」
「党員からの苛烈なカンパの強制とか、関係団体からの凄い額の上納金なんかが、汚くない金と云うのなら、それは確かに薄汚くはないですかね」
 均目さんは皮肉に笑って見せるのでありました。「あの政党は学術会にも、ある方面の産業界にも、それに新聞社や出版社と云ったマスコミ業界にも相当食い込んでいて、色んな組織にあの政党の細胞が送り込まれて活動しているし、或る一面ではその組織を支配していると云っても良いくらいですよ。それにまたこの細胞達が、実に献身的に働くときているし、党のためなら命も要らないと云う狂信的な人間もいるくらいですからね」
「まるでこの国の深い部分で、この国を陰で支配しているみたいな云い草だな」
 袁満さんは信じられないと云った顔をするのでありました。
「ある一面では、そう云ってもそんなに大袈裟でもないでしょうね」
 均目さんはしたり顔でゆっくりビールグラスを口元に運ぶのでありました。
「しかしそんなに凄い政党なら、この国の中でもうとっくに政権でも取っていて良い筈だけど、実情としては全くそうはなっていないよなあ」
 頑治さんが話しに加わるのでありました。
「議会制民主主義を屁とも思っていないんだよ。表面の顔としては如何にも議会を尊重しているような風を装っているけど、そんなものは打倒して、あの政党の一党独裁を実は目論んでいるから、現状の議会の中で政権を取る事に然程の重きを置いていないのさ」
「そうかなあ」
 頑治さんは首を傾げて見せるのでありました。「他党との連立を指向して、議会で今の政権を打倒する事を狙っているんじゃなかったっけ、あの政党は」
「いやそれはあくまでも表向きの顔だろう。若し他党との連立が成功して政権を奪取したとしても、それが本当の狙いじゃないから、その連立の中で他党をお得意の陰謀とか策略でかき回してグチャグチャにして、その連立を結局崩壊させて、その混乱に抜け目なく乗じて、最後には一党独裁を実現しようと云う将来戦法を画策しているんだよ」
「ふうん。そうなのかねえ」
 頑治さんは懐疑的な顔で猪口の酒をグイと飲み干すのでありました。「でも、その遠大なる謀は、今に至っても未だに全く成就していない、と云う事になるね」
「あの政党の正体は、片久那制作部長がよく知っているから、聞いてみると良い」
 自説に頑治さんがまるで信頼を置いていない様子であるのが気に障るのか、均目さんはここで説の信憑性を担保するつもりで片久那制作部長の名前を出すのでありました。
(続)
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