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あなたのとりこ 600 [あなたのとりこ 20 創作]

「まあ、そんなに凄まなくても、二人の候補の名前はもう知れていますけどね」
 均目さんも負けていないところを見せるために、眼容に精一杯の迫力と大袈裟な対抗心を込めて土師尾常務を見据えるのでありました。
「先ず唐目君で、その次があたしね」
 那間裕子女史が土師尾常務を喧嘩腰の目で見据えるのでありました。
「その通り」
 土師尾常務は何故かここで力強く頷いて見せるのでありました。「その心算で僕は半ば公然と動いていたので、別に誤魔化す必要もない」
「何だか開き直っているようですね」
 均目さんが皮肉っぽく笑うのでありました。
「開き直る必要すら、別にない。こんな窮状にある会社にとって、社業に不可欠ではない人から切るのは、それは経営として当然の判断だろう」
 この言に依ると頑治さんは会社で最も無用な人物として経営側から見られていると云う事のようであります。まあ確かに、頑治さんが今遣っている業務仕事は、云わば誰でも熟せるような単純労働で、高度の習熟度も専門性も必要のないものではありますか。
「唐目君は会社に必要ではない人だと云うのね」
 那間裕子女史が歯を剥き出すのでありました。「それに唐目君の次ぎには、このあたしが社員の中での厄介者と云う事ね」
「はっきり云えば、そう云う事だ」
 土師尾常務は如何にも遣りにくそうにではあるものの、この時は那間裕子女史から視線を外さないで、目玉の微動も極力抑えながら断言するのでありました。
「唐目君の真価を、それに那間さんの真価も、常務はまるで判っていないようですね」
 袁満さんが抗弁を開始するのでありました。「唐目君は前に片久那制作部長から大いに評価されていて、恐らく片久那制作部長は唐目君を将来、制作部の中心人物に育てようと云う気でいたんだと思いますよ。だから業務仕事の合間に、と云うか業務仕事は俺や出雲君が出張に行っていない時にはこちらに割り振って、制作部の手伝いとか自分の助手みたいな仕事をさせていたんですよ。それは常務も判っていたでしょう?」
「まあ、ぼんやりとは、判っていたよ。社内の規律上、苦々しくは思っていたけど」
 土師尾常務は顔を顰めて見せるのでありました。
「その時には片久那制作部長のそう云う遣り方に何の口出しも出来なかったくせに、今になって唐目君を余計者みたいに云うのは、一体どう云う了見からですか」
「別に口出し出来なかった訳じゃなくて、時期を見てきちんと云う心算だったんだ」
「そうかしら、今頃つべこべ言い訳しているけど、要するに片久那さんが畏れ多過ぎて、萎縮してとても云い出せなかったんじゃないの?」
 那間裕子女史が可愛気の欠片もなく嘲笑うかのように鼻を鳴らすのでありました。
「無礼な!」
 土師尾常務は全くお決まりにここで逆上するのでありました。
(続)
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