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あなたのとりこ 384 [あなたのとりこ 13 創作]

「それは、まあ。・・・」
 土師尾常務は曖昧に、頷くような頷かないような仕草をするのでありました。
「じゃあ出雲さん、早速片久那制作部長に持ちかけてみますから同席してください」
 頑治さんは出雲さんの方に顔を向けるのでありました。
「ええ、お願いします」
 出雲さんは頑治さんに頭を下げるのでありました。頑治さんは微笑を返して頭を元の正面に戻す序に土師尾常務の顔をチラリと窺うと、仏頂面で眼鏡の奥の目を何度か瞬かせているのでありました。頑治さんの提案を許した事が後々自分の権威を貶める禍根とならないかとか、或いは益々頼りになる上司像に於いて片久那制作部長に差を付けられて仕舞わないかとか、恐らくそう云う辺りをあれこれ秘かに計量しているのでありましょう。
 何をどうしてしていいのやら今の今迄皆目見当がつかないと云った按配だったので、出雲さんは感謝に満ちた目で頑治さんを見ているのでありました。その視線を感じて頑治さんも、この自分も少しは役に立てるかしらと仄々と嬉しくなるのでありました。
 それにしても土師尾常務の当初の目論見では、出雲さんを崖際に追いつめて自ら眼下の海へ墜落させようとする心算だったのだとしたら、頑治さんは余計な差し出口をしたと云う事になるのでありましょう。それを恨みに思って後々色々と嫌がらせめいた事をされるのは、何とも厄介至極であると頑治さんはチラと考えるのでありました。
「袁満君の仕事に就いても、何か良い方策はないものかねえ」
 社長が頑治さんの顔を見ながら訊くのでありました。
「これはすぐに有効な方策と云う事ではないのですが、日本全国を幾つかに分割して、その分割された各地方に拠点を構築すると云う方法が常道だとは思います」
 頑治さんとしては、これはぼんやりと考えていた事で、具体策とかは未だ何も思い付いてはいないのでありました。「その拠点々々を袁満さんが差配する事にします」
「各地方に拠点、ねえ」
 社長がそう繰り返して首を傾げるのでありました。頑治さんの云っている事が何とも茫漠としていて、俄かには理解出来ないと云った表情でありましたか。
「要するに各地方々々に、前に袁満さんや出雲さんが出張営業でやっていたように、そのエリアの観光地やホテルや旅館、それにお土産屋さんなんかを細目に回る人員を配置して、その人を袁満さんがこの事務所に居て遠隔で統括すると云う事ですよ」
 これだけでは未だ茫漠具合が晴れなかろうと頑治さんは続けるのでありました。「その配置する人員と云うのは、勿論会社で新たに社員として雇用するのではなく、例えば各地のギフト関連や一種の卸業をやっている会社とか、或いは売り上げに応じて儲け分を支払うマージン取引契約を結んだ個人とかで、嘱託とか契約社員と云う身分で、担当地方を回って貰う訳です。まあ、そう云う会社や個人を見付けると云う手間はかかりますが」
「そう云うのは僕も前に考えた事もある」
 土師尾常務が口元に冷笑を浮かべて云うのでありました。「しかしなかなか、そんなウチに都合の好い人や会社なんか、今のこのご時世、おいそれと見つからないよ」
(続)
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