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あなたのとりこ 383 [あなたのとりこ 13 創作]

 この日比課長の間髪を入れない同調は社長に対するヨイショ狙いと、地方特注営業に対して大した意欲も定見も、端から持ち合わせていないであろう土師尾常務への遠回しの当て擦りの魂胆があると頑治さんは思うのでありました。まあしかし日比課長の魂胆はここでは取り敢えず脇に置いて、頑治さんは出雲さんに向かって続けるのでありました。
「烏滸がましいけど、自分の方から片久那制作部長に話しを振ってみましょうか?」
「ああ、そう云う事ならよろしく頼みます」
 出雲さんが藁をも掴むような表情で大いに乗り気を見せるのでありました。

 土師尾常務がここで咳払いするのでありました。それは、人を批判する事に総ての言を費やして会話を紛糾させ続ける自分を恥じて、これから先高次元の会議にするための心機一転の咳払い、と云う訳では勿論ないのでありました。はたしてと云うべきか、誰もの期待を裏切らない下らない下心からと云うべきか、どうやら頑治さんの発言以来、暫し自分が無視されている事を恨んでの、一種の自己主張のための咳払いのようでありました。
「今ここに居ない片久那制作部長の事は取り敢えず置いておいて、僕が出雲君と一緒に営業周りをする方が先じゃないかな、事の順序としては」
 どうしてそちらの方が先なのか云っている事がさっぱり判らないながら、それを指摘するとまた逆上して余計筋違いの雑言を撒き散らすに決まっているから、頑治さんは決して侮蔑的には見えない、寧ろ至極穏やかそうな笑みを浮かべて、土師尾常務に対してそれは正にご尤もである、と云った具合に何度か頷いて見せるのでありました。
「常務の親心は勿論多とすべきところではあります」
 頑治さんは畏れ入るように目を伏せるのでありました。「因みに例えば、出雲さんが回っている地方の街とかに、多方面に顔の広い常務の、昵懇にしているギフト会社とか、仕事関連の知り合いがいらっしゃる広告代理店とか、おありになりますかねえ?」
「いや、そっちの方面には特に、・・・」
 土師尾常務は首を小さく一度横に振って、歯切れ悪そうに云うのでありました。「多分業界の知り合いに声を掛ければ、何社かはピックアップ出来ると思うけど。・・・」
 だったらさっさとそれを実行して出雲さんの仕事を助けろよと、そう云いたいのは山々ながらそれをグッと堪えて、頑治さんは口元の無邪気そうな微笑と、彼の人に対する心服と謹慎さをそこはかとなく表するような顔付きの維持に努めるのでありました。
「それは好都合ですね。恐らくかなり有力な手掛かりになるでしょうからから、ご苦労をおかけしますけど、そちらの線に先ずは当たっていただけますでしょうか?」
「勿論それは、唐目君に云われる迄も無くやってみるけど」
「で、その有力な常務の伝が本格的に動き出す前に、小手調べと云うのも何ですけど、片久那制作部長の線を先ずは試してみると云うのはどんなものでしょうかねえ?」」
「まあ、僕の方を台無しにしないための小手調べなら、それも良いかも知れない」
「ああそうですか。今常務のお許しを得たようですから、僕がさっき話した片久那制作部長の線を先行して進めても、それは構わないですよね?」
(続)
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