あなたのとりこ 365 [あなたのとりこ 13 創作]
「まあ、行われた事は問題が無いとしても、支払われた退職金の額が妥当であるのかどうかは、一応確かめてみる必要はあるかも知れませんけど」
頑治さんは、四人の鋭角な視線に怖じたからと云う訳ではないのでありましたが、そんな風な、多少四人の剣幕に阿るような事を口にするのでありました。
「それはそうだな。退職金が土師尾常務と片久那制作部長の云いなりに、或いは社長の恣意に任せて支払われているのなら、これは問題だ」
均目さんが頑治さんの言に早速乗るのでありました。「ウチの退職金の規定はどうなっているんだろう。退職金に関してはこれ迄何も話し合ってはいなかったからなあ」
均目さんは云い終ると甲斐計子女史を見るのでありました。
「あたしは何も知らないわよ、そんな退職金規定の事なんか」
酒を飲めないから一人だけグレープフルーツジュースを飲んでいた甲斐計子女史が、そのグラスをテーブルに置いて手を横に何度も振って見せるのでありました。
「就業規則には退職金の規定が確かに記述してあったと思うけど、退職者には退職金を支払う、とだけ書いてあって、額の算定に付いては何も書いてなかったかなあ、確か」
均目さんが宙に目を遣って、何かを思い出すような風をするのでありました。
「山尾さんが辞めた時、退職金は出たんでしょう?」
那間裕子女史は均目さんの方を見ながら訊くのでありました。
「多分出たんじゃないかな。本人に確かめた訳じゃないけど」
均目さんも確証は無いようでありました。
「出たわよ、ちゃんと」
甲斐計子女史が言葉を挟むのでありました。「額はちょっと忘れたけど、一応土師尾さんからメモを渡されて振り込んだわよ。でも、全然高額ではなかったと思うけど」
「額は後で、何かで確かめられるでしょう?」
「勿論、その時のメモも取って置いてあるから、それは確かめられるけど」
那間裕子女史の質問に対して甲斐計子女史は一つ二つ頷いてから、先程机上に一端置いたグレープフルーツジュースのグラスをまた手にするのでありました。
「ところで月曜日に予定されている会議の席で、土師尾常務と片久那制作部長に支払われた退職金について、こちらの方から話しを切出すのかな?」
均目さんが話頭を元の方向に戻すのでありました。「退職金の話しをし出すと、あの二人は何が問題だと開き直るだろうし、こちらはこちらで不当だと云う思いがあるし、本来予定していた会社の将来の見取り図とかの話しなんか脇に追いやられて、支払われた退職金の事一辺倒になって仕舞うんじゃないかなあ。それに多分大いに紛糾するだろうし」
「それは確かに。土師尾さんなんかは何を云い出すんだとすぐに感情的になって怒り出すじゃないかしら。まあ、あの人のそう云う態度には慣れっこになっているけどけど」
那間裕子女史がビールのジョッキを空けてから云うのでありました。
「片久那制作部長も、その話しになったら面白くはないだろうなあ」
袁満さんが身震いをして見せるのは、彼の人の顔を思い浮かべた故でありましょう。
(続)
頑治さんは、四人の鋭角な視線に怖じたからと云う訳ではないのでありましたが、そんな風な、多少四人の剣幕に阿るような事を口にするのでありました。
「それはそうだな。退職金が土師尾常務と片久那制作部長の云いなりに、或いは社長の恣意に任せて支払われているのなら、これは問題だ」
均目さんが頑治さんの言に早速乗るのでありました。「ウチの退職金の規定はどうなっているんだろう。退職金に関してはこれ迄何も話し合ってはいなかったからなあ」
均目さんは云い終ると甲斐計子女史を見るのでありました。
「あたしは何も知らないわよ、そんな退職金規定の事なんか」
酒を飲めないから一人だけグレープフルーツジュースを飲んでいた甲斐計子女史が、そのグラスをテーブルに置いて手を横に何度も振って見せるのでありました。
「就業規則には退職金の規定が確かに記述してあったと思うけど、退職者には退職金を支払う、とだけ書いてあって、額の算定に付いては何も書いてなかったかなあ、確か」
均目さんが宙に目を遣って、何かを思い出すような風をするのでありました。
「山尾さんが辞めた時、退職金は出たんでしょう?」
那間裕子女史は均目さんの方を見ながら訊くのでありました。
「多分出たんじゃないかな。本人に確かめた訳じゃないけど」
均目さんも確証は無いようでありました。
「出たわよ、ちゃんと」
甲斐計子女史が言葉を挟むのでありました。「額はちょっと忘れたけど、一応土師尾さんからメモを渡されて振り込んだわよ。でも、全然高額ではなかったと思うけど」
「額は後で、何かで確かめられるでしょう?」
「勿論、その時のメモも取って置いてあるから、それは確かめられるけど」
那間裕子女史の質問に対して甲斐計子女史は一つ二つ頷いてから、先程机上に一端置いたグレープフルーツジュースのグラスをまた手にするのでありました。
「ところで月曜日に予定されている会議の席で、土師尾常務と片久那制作部長に支払われた退職金について、こちらの方から話しを切出すのかな?」
均目さんが話頭を元の方向に戻すのでありました。「退職金の話しをし出すと、あの二人は何が問題だと開き直るだろうし、こちらはこちらで不当だと云う思いがあるし、本来予定していた会社の将来の見取り図とかの話しなんか脇に追いやられて、支払われた退職金の事一辺倒になって仕舞うんじゃないかなあ。それに多分大いに紛糾するだろうし」
「それは確かに。土師尾さんなんかは何を云い出すんだとすぐに感情的になって怒り出すじゃないかしら。まあ、あの人のそう云う態度には慣れっこになっているけどけど」
那間裕子女史がビールのジョッキを空けてから云うのでありました。
「片久那制作部長も、その話しになったら面白くはないだろうなあ」
袁満さんが身震いをして見せるのは、彼の人の顔を思い浮かべた故でありましょう。
(続)