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あなたのとりこ 359 [あなたのとりこ 12 創作]

「まあ確かに、今唐目君が云った通りかなあ」
 袁満さんが頑治さんから目線を外して頷くのでありました。
「じゃあ、社内全体会議を提案するとして、それは組合として提案するのかしら?」
 那間裕子女史が頑治さんの顔を見つめながら訊くのでありました。
「まあ、組合の存在を後ろに匂わせて提起する方が、向こうに対して滅多な対応は出来ないぞと云う、多少の威迫感は伝えられますかね」
 行きがかりから頑治さんが那間裕子女史に向かって応えるのでありました。
「それはそうかな。じゃあ、何時その提案をするかな」
 袁満さんが天井に視線を投げて考える風の表情をするのでありました。「会議開催に向けての、こちらの用意もあるからなあ」
「いや、そこで議論すると云うのではなく、向こうが描いている将来の会社の見取り図を聞き質す会議なんだから、こちらの用意は取り敢えず要らないんじゃないですかね。まあ一般論として、どんな話しが出て来ても冷静を保つ気持ちの準備は必要だけれども」
 均目さんが袁満さんの、何に依らず何事かを起こそうとする時に決まって見せる、用意周到名目の緩慢、或いは保留に少しの苛々を目線に滲ませて云うのでありました。
「全体会議開催の提案は、明日にでも申し入れて良いんじゃないの」
 甲斐計子女史も袁満さんの余計な慎重さに不満の声音で云うのでありました。
「そうね、あたしも明日と云うのに賛成だわ。何事も早い方が良いもの」
 那間裕子女史が同調するのでありましたが、この女性二人の積極性は袁満さんにプレッシャーを与えたようで、袁満さんは自分の及び腰を恥じるように二人を上目遣いにチラと見た後、目が合う前に慌てて視線を外して云い添えるのでありました。
「じゃあ、明日の朝にでも俺から土師尾常務に云うよ。まあ、明日の朝、土師尾常務が直行名目で会社に来なければ、それは無理だけどね」
「朝が無理でも、会社に現れた時に提案すれば良いじゃないの」
 那間裕子女史が窘めるような口調で云うのでありました。袁満さんとしては土師尾常務が朝会社に来なければ云々、と云う文言は、彼の人への一種の揶揄として口から滑り出た言葉のようであります。しかし那間裕子女史にその軽口を冗談と受け取られないで、寧ろ不謹慎として窘められたこの構図は些か不本意と云うのも疎か、でありましょうか。

 次の日の、朝は予想通り土師尾常務は得意先直行の電話を寄越したものだから、午後一番に袁満さんは全体会議の招集を彼の人に提案したのでありまいた。土師尾営業部長はその提案を聞いた時に、先ずはどう云う差し出がましさで社員の方から会議少数提案をするのかと云いたいように、不愉快そうに眉根を寄せたのでありました。
 しかし案外あっさりと提案を呑むのでありました。その折、自分の方からもこの辺りのタイミングで社員に云って置きたい事があるから、と云う挑戦的なもの云いも添えられるのでありまいた。袁満さんは何時も通りの、すぐに喧嘩腰になる口調にうんざりしながらも、取り敢えず開催に同意を得た点に内心ほっとするのでありました。
(続)
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