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あなたのとりこ 357 [あなたのとりこ 12 創作]

 袁満さんも何故自分ではなくて出雲さんがそちらに回されたのかは、実は明快には判らないようでありました。まあ、何事にも保守的で進取の気象と云う点では今一つもの足りない性向の袁満さんとしては、急に全く新しい仕事を押し付けられるのは御免蒙りたいでありましょうから、自分じゃない事に内心胸を撫で下ろしたでありましょうし。
「今度の出雲君が就く事になった仕事と云うのは、土師尾さんが前からずっと胸の中で温めていた営業形態だったのかしらね?」
「いやあそうじゃなくて、出雲君を今までの出張営業から切り離すために、急場凌ぎに思い付いたんだろうなあ。元々、そんな創意工夫なんか端から期待出来ない人だしね」
「要するに出張営業の縮小が狙いで、そのための方便みたいに思い付いたって事ね?」
「まあ、そんなところだろう」
 袁満さんは何度か頷いて見せるのでありました。「正月の会議の時は山尾主任も会社にまだ居たから、その山尾主任の営業部への移動を第一番目に勘案して、まあ、事の序に出雲君にも適当に考えた新規の仕事を宛がったんじゃないのかな」
 大体に於いて袁満さんは土師尾常務の管理者としての力量を全く信用していないのでありましたから、この云い草は侮りをたっぷり含んだものでありましたか。
「それに山尾さん絡みで云えば、山尾さんを特注営業にコンバートして、それ迄そっちを土師尾さんと一緒に担当していた日比さんも、新しい仕事の方に回される筈だったわ」
 那間裕子女史が言葉を挟むのでありました。
「そうよね、お正月の会議ではそんなような話しになっていたわよね」
 甲斐計子女史が頷くのでありました。
「土師尾常務の魂胆としては多分、出張営業奈の縮小と、その後には結局廃止と云う線も頭の中にあったんだろうな。それから出雲君と日比課長の切り捨てと云う目論見も見え隠れするかな。尤も、この切り捨ての件は唐目君が最初に云い出した事だけどね」
 均目さんがそう云うと皆の視線が頑治さんの方に集まるのでありました。
 確かに頑治さんが少し前に那間裕子女史と均目さんとの酒席の折だったかに口にしたことに違いないのでありました。土師尾常務と、或いはひょっとしたら片久那制作部長も含めた二人の狙いなんというものは、単に山尾主任を営業部へ配属替えすると云う人事異動ではなく、実はその裏に日比課長と出雲さんと云う二人の営業二番手を切り捨てる魂胆が潜んでいるのではないかと、その少々凝った詮索を披露したのでありましたか。
 しかしそれは那間裕子女史と均目さんの二人限定で、云ってみればこっそりと披露した見立てであって、ここで均目さんに皆の前で披露されるのは些か不本意な気がするのでありました。何やら頑治さんが内心、今次の事態を面白がっていて、人の悪い好い加減な観測を弄んでいるように受け取られる場合があるやも知れません故に。まあ、この頑治さんの小心さ加減が、頑治さんの取り越し苦労なら良いのでありますが。
「出雲君と日比さんの切り捨てって云うのは、つまり馘首にするって事?」
 甲斐計子女史が少し声のトーンを高くするのでありました。
「そうね。最終的には解雇を狙っていると云う事になるでしょうね」
(続)
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