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あなたのとりこ 349 [あなたのとりこ 12 創作]

「ところで、メーデーには初参加するんだろう、ウチの分会も?」
 頑治さんが今迄の話しとは全く無関係な話題を均目さんに振るのでありました。
「そうなるだろうな。色々世話になった全総連への義理もあるから」
 均目さんは那間裕子女史の土師尾常務への敵意がふとした弾みにこっちに向けられたりしたら叶わないと、頑治さんの話頭変更に渡りに舟と乗っかるのでありました。
「一応全員参加が原則かな?」
「ま、原則はそうだけど」
 均目さんはどうしてまた頑治さんがそんな質問をするのか、と云ったような目付きをしながら応えるのでありました。「未だ少し先の話しだけど、五月一日は何か今から予定が入っていて、唐目君はひょっとしたら都合が付かないのかな?」
「いやまあ、そんな事も無いんだけど、・・・」
 頑治さんは曖昧に応えるのでありましたが、ゴールデンウィークには夕美さんが東京に出て来る筈で、頑治さんとしてはメーデーよりは夕美さんとの逢瀬を優先させたいのでありました。まあ、根掘り葉掘り均目さんや那間裕子女史に訊かれるのは勘弁して貰いたいから、それ以上の言葉は畳んで喉の奥に仕舞うのでありましたが。

 出雲さんは当面仕事が無いのでありました。例年は早春からの東北方面から出雲さんの出張営業が始まるのでありましたが、年頭から新たな地方特注営業と云う仕事に回されたので、従来の仕事は袁満さんの方に割り振られて仕舞ったのでありました。
 しかも山尾主任が抜けると云う予期せぬ事態が出来しために、指導者兼相棒たる日比課長が従来の都内特注営業からなかなか足を洗えないのでありました。依って地方特注営業と云う仕事は未だに何も始動出来ないのでありました。まあ、だからと云って、出雲さんはやきもきしていると云うような風は特段見られないのでありましたけれど。
 出雲さんは暇そうにしているからと声を掛けられると、日比課長の都内特注営業回りに助手みたいな立場で同行してみたり、仕事を引き渡した袁満さんの手助けをしてみたりしているのでありました。それに頑治さんが片久那制作部長の云い付けで製作部の仕事の方をやっている時は、倉庫の中で入出庫管理とか発送品の荷造り梱包とか、車での配達とか集荷とかの業務仕事を代わりに受け持ったりしているのでありました。
 出雲さんは従来の地方出張ばかりの仕事はそんなに好きでも無く、些かうんざりしていたのでありましたから、どちらかと云うとこれと云った決まった仕事の無い現状に不安や不本意を覚えると云うよりは、現状のそんな境遇をのんびり謳歌していると云った感じでありましたか。そうしてこんな出雲さんの会社での在りようを、自分には只管甘く、人の瑕疵には甚だ容赦のない土師尾常務が見咎めない筈がないのでありました。
 或る日の午後、出雲さんは日比課長と一緒に会議名目で土師尾営業部長に社外への同道を命じられるのでありました。屹度喫茶店辺りで陰鬱な追及とかお小言を二人揃って頂戴するのでありましょう。まあ、ひょっとしたら地方特注営業と云う新しい仕事に関して、土師尾常務から何かしらの画期的な提案があるのかも知れませんけれど。
(続)
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