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あなたのとりこ 332 [あなたのとりこ 12 創作]

「そうよ。社長や土師尾営業部長は何を仕出かすか判らない連中よ」
 那間裕子女史も日比課長に険しい視線を送るのでありました。
「いやまあ、そうかも知れないけど、でも組合に入るのはなあ、・・・」
 日比課長の逡巡はなかなかに頑固な模様であります。
「どうしてまた、そんなにも組合に入るのを躊躇うんですか?」
 頑治さんがその頑迷さに何やらの意味でもあるのかと思って訊くのでありました。
「社長や土師尾営業部長に幾ら忠義立てして見せても、何の得も無いよ。向こうは日比さんの忠義なんて屁とも思っていないんだから。その忠義立てなんかは如何にも無意味だと思うけどね、俺は。それともあの二人に何か弱みでも握られているの?」
 袁満さんが些か遠慮の無い云い草をするのでありました。
「別に弱みなんか握られていないよ」
 日比課長は眉を寄せて不愉快そうに呟くのでありました。「そんなんじゃなくて、俺が組合に入っても、何となく一人だけ浮きそうな気がするんだよ」
「一人だけ浮く、と云うのはどういう事ですかね?」
 頑治さんが首を傾げるのでありました。
「俺だけ皆と歳も離れているし、その分色んな事に対する考え方もズレがあるだろうし、上手くやっていける自信も無いしね。何よりも組合の活動なんて億劫だしねえ」
「組合活動に歳は特段関係無いんじゃないですかね。それよりも、身に迫っているかも知れない危機に対して、何も方策しないのは如何にも危ないんじゃないでしょうか」
「そうだよ、唐目君の云う通りだよ」
 袁満さんが頑治さんの言に乗せて云い募るのでありました。「甲斐さんに妙な手を回そうとした社長と土師尾営業部長が、トータルの人件費を抑えようとして、今度は同じような立場の日比さんにちょっかいを出してくるのは、判り切った事じゃないかね」
「いや、それは無いよ。それも俺が絶対させない」
 片久那制作部長が語調を強めて云うのでありました。「でも、従業員が一枚岩だと思われていた方が、存在感として強いし、交渉事に於いても一本になっている方が何かと好都合に作用するだろうから、甲斐君も日比さんも組合に入っておいた方が得策だな」
「そうだよ日比さん。片久那制作部長の云う通りだよ」
 袁満さんが嵩に懸かるのでありました。「組合に入ると、ここで決断してよ」
「いやまあ、それはそうだけど、でも矢張り、俺は当面、遠慮しておくよ」
 日比課長の煮え切らない及び腰は意味不明且つ、矢鱈に強硬なのでありました。
「あたしは入るわ、組合に」
 甲斐計子女史がここで発言するのでありました。「その方が安心みたいだし」
 現実に社長の横暴を蒙ろうとした瀬戸際でそれを回避出来た甲斐計子女史は、向後そんな事態はまっぴら御免と観念してか組合加入をここで容認するのでありました。
「こちらとしては、それは大歓迎だよ」
 袁満さんが諸手を上げて歓迎の意を表すのでありました。
(続)
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