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あなたのとりこ 323 [あなたのとりこ 11 創作]

「でもこの先全国組織に加盟している労働組合員にはなかなか、妙な手出しをするのは控えるだろうけど、組合の後ろ盾が無い日比課長には、社長や両部長が過酷な労働条件を課してきたり、待遇面でも色々無体な事を云ってくるかも知れないですよ。それを防ぐ手だてが、腐れ縁、だけと云うのならそれは如何にも頼りない気がするけど」
 均目さんがそれとなく脅すのでありました。
「新年早々の社員全員での話し合いでも、日比さんはこれ迄やって来た特注営業の実績を簡単に無視されて、将来の、海の物とも山の物とも未だ全く判らない地方特注営業とやらに回されそうになったんだから、社長や両部長は日比さん程にその腐れ縁とやらを大事には思っていないよ、屹度。そんなものをのんびり頼りにしているよりも、ここはちゃんと組合に入った方が、会社に於ける日比さんの身のためだと俺も思うけどね。」
 袁満さんも調子を合わせるのでありました。
「まあ、そうかも知れないけどね」
 日比課長は猪口をグイと傾けるのでありました。「でも何となく俺は、考え方が根っからの保守で、労働組合に入ると云うのは何となく抵抗があるし、・・・」
「労働組合は左翼的で、どうにも好きになれない、と云う事?」
 均目さんが首を傾げて日比課長の顔を覗き込むのでありました。
「ストライキとか座り込みとか街頭デモとか、そんなイメージか強いのかな?」
 袁満さんも日比課長の顔に視線を向けるのでありました。
「まあ、そうかな。俺はそんなの好きじゃないしね」
「俺だって好きじゃないですよ」
 均目さんが徳利の酒をテーブルの上の日比課長の猪口に注ぐのでありました。「でも、全総連は組合員個人の政治的な考え方や心情にはタッチしないのが原則ですよ。支持政党も自由だし。会社での労働環境と待遇の改善が組合活動の第一番目の目的だし」
 そんな事を云う均目さんその人が、実はこの組合員五人の中で一番、全総連の強い政治性に対して身を斜にしているのではなかったかしらと、頑治さんは日比さんへの均目さんの説得の言葉聞きながら思うのでありました。これはちょっと調子が良すぎると云うものだし、大いに無責任な云い草と云うべきでありましょう。
「まあそうかも知れないけど、・・・」」
 日比課長はそれでもなかなか頑ななのでありました。「俺は今の段階では組合に入るのは遠慮しておくよ。この先何か妙な事があったら考えても良いけどね」
 日比課長は先程均目さんが日本酒をなみなみと注いだ猪口を取り上げて、一定程度の高さで止めて、零さないように口で迎えに行くのでありました。

「今の話しの流れから云うけど、甲斐さんはどうするのかしらね?」
 那間裕子女史が袁満さんも均目さんも出雲さんも、それに頑治さんも気が利かないものだから手酌で酒を自分の猪口に注ぎ入れながら、社内に居るもう一人の非組合員である甲斐計子女史の名前をここで出すのでありました。
(続)
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