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あなたのとりこ 315 [あなたのとりこ 11 創作]

 袁満さんから終業時間直前に打ち合わせの集合が掛かって、組合員は倉庫に集まるのでありました。袁満さんは社長からの宴会の誘いを受けた事を報告してから、参集した組合員の顔を見回して諾否を問うのでありました。
「何だろう、今迄の従業員に対する悪行の数々を悔いて、罪滅ぼしでもする心算かな」
 均目さんがそんな冗談を云うのでありました。
「まさかそんな訳でも無いだろうけど、まあ、春闘も終わったので、一先ずの手打ちと云った気持ちからなんじゃないの」
 袁満さんが均目さんの顔を真顔で見ながら、その冗談を半分程は冗談だと受け取っていないような按配の返答をするのでありました。
「少しくらいは俺達へのおべっかの気持ちもあるんじゃないっスかねえ」
 出雲さんが社長の底意を推し量るのでありました。
「おべっかとは少し違うけど、まあ、慰撫しようとする気持ちはあるだろうな。これから先、組合に敵対されたくはないだろうからその辺も慮って」
 均目さんは、今度は冗談気抜きの口調で云うのでありました。
「良いんじゃないの、その誘いに乗っても。あの社長に何やら込み入った魂胆があるとは思えないし。勿論向こうから誘った限りは社長のポケットマネーで奢ってくれる心算だろうけど、それを特段こっちが恩に着る必要も無いんじゃないかしら」
 那間裕子女史は大いにただ酒に釣られているような気配であります。
「ポケットマネーかどうか判らないじゃないですか。ひょっとしたら会社の金で支払いをする心算かも知れない。あの社長はなかなかけちん坊だからなあ。若し会社の金となると特に名目も無い宴会の費用として出す事になるから、問題があるんじゃないかな。それに参加する者も参加しない者もいるとすれば、福利厚生名目としても不公平になるし」
 袁満さんが少し厳格な辺りを危惧するのでありました。
「大体、ポケットマネーだとしても、那間さんはそうでもないみたいだけど、俺は社長に借りを作るように思うから、何かちょっと、うっかり乗れない気がするけど」
 均目さんが警戒心を見せるのでありました。
「全従業員が参加するの?」
 那間裕子女史が袁満さんにその辺を質すのでありました。
「社長の云い草からするとその心算みたいだったけど」
「組合員だけじゃなく、片久那さんも土師尾さんも、日比さんも甲斐さんもね?」
「社長はあくまで全従業員参加の心算なんじゃないかのなあ」
 袁満さんははっきりに確認していないためか自信無さそうに頷くのでありました。
「土師尾さんと飲む気にはなれないわね。あの人らしい見当違いの身勝手な思い違いなんだけど、でもこの春闘ではあたし達を少なからず恨みに思っているだろうし、そんな人と楽しいお酒が飲める訳が無いじゃない。酔ったら喧嘩が始まるかもよ」
「そうなっても、あんなへなちょこに喧嘩じゃ負けませんよ」
 袁満さんが顔の前で拳を作って見せるのでありました。
(続)
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