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あなたのとりこ 312 [あなたのとりこ 11 創作]

「いやまあ、あくまで匂いであって、まあ、はっきり全総連がその政党と繋がっていると云う確証を俺は持っていないし、巷間そのように云われると云った辺りですけどね」
 均目さんは曖昧に逃げるのでありました。
「前にも云った事があるかと思うけど、全総連は特定の政党と密接に繋がっていると云う事はないよ。全総連の組合員は個人的にどの政党を支持しようと自由だし、全総連がそれにあれこれ干渉する事は無い。全総連はあくまで労働組合なんだから」
 とは云うものの、与党である保守政党支持とか、宗教絡みの政党とか云う線は先ず無いでありましょう。それに第一、特定の政党と繋がっていると云う体裁は採らない方が、オルグや宣伝活動とか色んな意味で得策だから、表の顔は善良な無党派みたいに装っているけれど、しかしそれは矢張り、あくまで表向きの顔でしかないでありましょう。
 頑治さんは横瀬氏の公式論的な言辞を聞きながらそんな事を考えるのでありましたが、均目さんも横瀬氏の言に対して多分鼻を鳴らしているだろうと想像して均目さん方を見るのでありました。しかし均目さんは特段の顔色の変化を見せはしないで、無表情を貫いているのでありました。穏健派は、要らぬ紛糾は避ける心算のようでありました。
「片久那制作部長が組合に入るとなると、俺達も過激派の方に引っ張られていくかも知れないけど、俺としてはそれは勘弁してもらいたいなあ、出来れば。俺は何方かと云うと戦闘的な性格ではないし、万事出来るだけ穏便に済ませたい方だからねえ」
 袁満さんが先程の出雲さんと同じような感想を漏らすのでありました。こちらも本気で片久那制作部長の組合加入を懸念しているようであります。
「片久那制作部長は絶対、この組合には入らないから心配しなくても大丈夫ですよ」
 均目さんがここでも何だか妙な請け合いをするのでありました。しかし幾ら苦手にしている人だからと云って、加入を希望する従業員を敬遠する組合と云うのも、ケツの穴の小さいちんけな了見の労働組合と云うべきであろうと頑治さんは思うのでありました。
 そう云う均目さんを横目で見ながら、横瀬氏が不愉快そうに表情を曇らせるのでありましたが、別に口は開かず、この場では均目さんのある意味で無神経な言辞を聞き流そうと云う心算のようでありました。まあ、それが若し無神経な言辞と聞こえたとすれば、つまり全総連がその左翼政党と裏で繋がっている左証と云う風にも考えられると云うものであるかと、頑治さんはどちらかと云うと均目さん寄りの感想を持つのでありました。

 三次回答は書面も出てこないのでありました。二次回答から一歩も動かす意志が無いと云う経営側の明快且つ慎につれない態度表明でありますし、回答を重ねさせれば幾らでも譲歩するだろうと云う甘い観測も通用しないぞと云う、憤慨の表明でもありますか。
 確かに組合側としては虫の好い観測を以って二次回答を拒否した経緯もありますから、書面も出さない向こう側の態度に、がっかりはするもののそれ程の怒りは感じないのでありました。そんなに甘くはない事は既に承知していたのであります。依って先の二飛回答を以って妥結と云う事に、今次も下の倉庫での打ち合わせの時間を挟んだ後に、結局決するのでありました。結果として三日間と云う無駄な日数が挟まっただけでありました。
(続)
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