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あなたのとりこ 286 [あなたのとりこ 10 創作]

「あの人の感受性の性向からすると、恥じ入ると云うよりは袁満さんが今云ったように、片久那制作部長に対しては裏切られたと云う逆恨みが先に立っただろうな、確かに」
 均目さんが皮肉な笑いを浮かべるのでありました。「でも片久那制作部長に何か云うには、自分があらゆる面で相当に役不足である事はちゃんと知っているし、うっかり何か云おうものならどんな反撃を喰うか判らないから、ダンマリを決め込むしか手が無い」
 そんな経緯を聞きながら頑治さんは、片久那制作部長が団交の間中ずっと沈黙を守っていた訳ではない事を知るのでありました。まあ、現場を預る管理職として、一方の土師尾営業部長に発言させればどんな紛糾や不利が生じるか判ったものじゃないから、土師尾営業部長への当て擦りも多少加味して自分が前に出たと云った按配でありますか。
「あれこれ聞くと、土師尾営業部長と云う人は相当に問題有りの人物みたいだなあ」
 横瀬氏が何故かしみじみと云うのでありました。
「問題有りどころか、問題だけで出来上がったような人間ですよ」
 袁満さんが彼の人の顔を思い浮かべたのか舌打ちするのでありました。
「確かお坊さんと云う一面もあるとか、前に聞いていたけど?」
「千葉の或る寺の副住職らしいですよ。でも副住職と云っても、請われてその役を引き受けたと云うよりは、自分から売り込んでその役に就かせて貰ったんでしょうけどね。まあこれは確認した訳じゃなくて、色々聞いた上での俺の推量半分ですけど」
 均目さんが返答するのでありました。
「それは副業と云う位置付けなのかな?」
「いや、寺からは別に手当ては何も貰っていないでしょう。寺としても副住職にしてやったんだからそれだけで有難いと思え、と云った心根でしょうからね。ま、法事とかで檀家を回ったりしたら、その分のお布施なんかは自分の懐に入れるんでしょうけど」
「つまりアルバイトではある訳か」
「そうですね。お布施稼ぎが目的のアルバイト坊主ですよ、あんなのは」
 袁満さんが軽侮満載の顔で云うのでありました。
「でも、仮にもお坊さんなんだから、少しくらいは理性的であるとか分別のある人であっても良いような気がするけど、聞いていると社内で一番生臭い人のようだなあ」
「あんなのはただの、浅はかで腐臭プンプンのインチキ坊主ですから」
 この袁満さんの言に均目さんが賛同の苦笑を漏らすのでありました。
「お坊さんだって事で、それを拠所に矢鱈と人徳者ぶったりするのは好きよね。それに曲がりなりにも僧籍に在るのだから、真面目で律義だろうと云う印象を使って、ウチのお得意さんなんかにちゃっかり人徳者振りを売り込んでもいるみたいだけどね」
 那間裕子女史も鼻を鳴らして見せるのでありました。
「そんな部長やあの社長をこの先相手にするとなると、なかなか大儀そうだな」
 横瀬氏が危惧するのでありました。
「いやいや、社長や土師尾営業部長は無責任にオロオロ騒ぎ立てるだけで、現場や会社の実情をちゃんと理解している片久那制作部長が実質上の相手、と云う事になります」
(続)
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