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あなたのとりこ 274 [あなたのとりこ 10 創作]

「そんなに形式張って改めて繰り返す事も無いと思うけど、・・・」
 那間裕子女史は少し面倒臭そうにそう独り言ちてから続けるのでありました。「ええと基本給は十四万円プラス、年齢マイナス十八に五千円掛けたもの。で、この式に全従業員の賃金が当て嵌まるようにすると云う事がほぼ決定事項ね。五千円と云うのが定昇分で、ウチでは誰も関係ないけど十八歳の人が十四万円と云う事になる訳ね。それで以って現状の賃金がその式に満たない場合はその分を各自に補填する、と云うのがあらましと云う事になるわね。その補填分は人に依ってばらつきがあると云う事になるわ。小規模単組連合の要求式とは違うウチ独自の要求だけど。まあ、来年からは小規模単組連合に合わせる事になるわ。これが、全員がこれまでの話し合いの中でほぼ納得しているところだわね」
 那間裕子女史はそこ迄云って一息吐いてまた続けるのでありました。「それと夏の一時金要求は、基準内賃金の三十割に一律五万円プラス。で、保留になっていたのが基準内賃金の内容で、基本給に役職手当を加えるかそれとも家族手当を加えるか、或いはその両方入れるかで意見が分かれている、と云うのがこれまでの経緯と云う事になるかしら」
「役職手当にしろ家族手当にしろ、山尾主任が居なくなったんだから、現組合員の中では該当者は誰も居ない訳だけどね」
 均目さんが茶々のようなそうでないような事をものすのでありました。
「でも全従業員に適用するんだから、片久那さんや土師尾さん、それに日比さんの事も考慮しないとね。甲斐さんは独身で無役だから関係無いけど」
「役職手当を外すと土師尾営業部長や片久那制作部長の反発が屹度あるよなあ」
 袁満さんが悩ましそうに呟くのでありました。
「土師尾さんはどうでも良いけど、片久那さんの反感を買うのは得策じゃないわね」
 那間裕子女史が頷くのでありました。
「片久那制作部長が今現在貰っている額と、俺達の新しい賃金式で計算した額とではどっちが多くなるんだろうかな」
 袁満さんが首を傾げるのでありました。
「はっきりは判らないけど、役職手当と家族手当、それに勤続手当や毎月の残業代とかあれこれ含めると、年収ベースでトントンか少しアップと云うところじゃないかな」
 均目さんがそんな推察を述べるのでありました。
「そんならあんまり問題は無いか」
 袁満さんが少し口元の緊張を緩めるのでありました。
「いやあ、なかなかの業突く張りだからそれじゃ全く不本意かも知れないわよ」
 袁満さんのこの甘い観測に対して、那間裕子女史は不同意のようでありました。
「でも、俺達従業員の賃金の底上げと云う辺りに、少しは義侠心を働かせるのじゃ?」
 袁満さんは聞きように依ってはより甘い呑気な観測を披露するのでありました。
「そりゃあ、自分の取り分に満足した上でなら、義侠心も発揮するかも知れないけど」
 那間裕子女史の方は皮肉な笑いを披露するのでありました。
「でも、抑々組合結成は片久那制作部長のためにやる訳じゃないし」
(続)
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