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あなたのとりこ 262 [あなたのとりこ 9 創作]

 頑治さんもこの、今年に入って早々の人事異動にはどことなく胡散臭さがあると思っていたのでありました。何としても売り上げを伸ばすための思い切った人事異動と云う触れ込みでありましたが、その唐突感も然りながら、新方策とやらとそのためのロスとの兼ね合いを、然程深く考察されたものとは思えないのであります。当初からそんな事とは全く別の、何やら隠された目論見が実はあるように思えて仕方が無いのでありました。
「要するに、山尾さんと出雲君を切り捨てようとしたんじゃないのかしら」
 那間裕子女史はそう云って頑治さんと均目さんを交互に見るのでありました。
「それでその二人に先ず、無理難題を押し付けたと云う事か」
 均目さんが興味を惹かれたように少し身を乗り出すのでありました。
「那間さんは何故その二人が選ばれたと考えたんですか?」
 頑治さんが訊くのでありました。
「山尾さんは片久那さんに疎まれていたし、出雲君は一番若手で袁満君の二番手に自分でも甘んじていたから、切り捨て易いと考えたんじゃないかしら」
「では山尾主任は片久那制作部長の意図から、それに出雲さんは土師尾営業部長の意に依って、この二人が選ばれたと云う訳ですかね?」
「まあ、要するにそうなるかしらね。山尾さんも出雲君も、会社にとって絶対掛け替えのない人材、と云うのではなさそうだから」
 那間裕子女史はその後に慌てて付け足すのでありました。「勿論これは、片久那さんと土師尾さんが心根の内でそう見做しているだろうと云う意味で、だけどね」
「しかしそんな云い訳しても、両部長の了見とは云うものの、那間さんがそう推察する訳だから、那間さん自身もそう云う風に見做していると云う事になるよね」
 均目さんが少し意地悪そうに指摘するのでありありました。
「客観的に見て、そうじゃないの。均目君もそう思わない?」
 これには均目さんは無応答を決め込んで態度を曖昧にするのでありました。
「しかし片久那制作部長が、山尾主任を自分の配下から外す意図はあったとしても、土師尾営業部長と結託して、会社を辞めさせようとまでするとは考えられないですがね」
 頑治さんが那間裕子女史の説に異論を挟むのでありました。
「確かにね。山尾主任は、一応は今迄自分の配下の人間だったんだからね」
 均目さんが頑治さんの考えに同調するのでありました。「あれで片久那制作部長は男気とか義理人情を結構気にするタイプだから、土師尾営業部長と一緒になってそんな陰湿な悪企みはしないだろう。土師尾営業部長の方はやりかねないけど」
「山尾さんと出雲さんの二人を切ると云うのは、人件費の点を考慮して、先ずは切り易い二人を切ろうとした、という事になりますかね?」
 頑治さんが那間裕子女史の顔を見て質問を進めるのでありました。
「そうね。人件費の削減と云う意味が濃厚よね」
「だったら、どうせ切るのなら出雲さんじゃなくて、日比課長の方が効果は大きいんじゃないですか? 日比課長が我々従業員の中では一番人件費が高いでしょうから」
(続)
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