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あなたのとりこ 225 [あなたのとりこ 8 創作]

「ところで唐目君、大学院に通っている彼女とお付き合いしているんだって?」
 那間裕子女史が突然話題を変えるのでありました。頑治さんは直前に口に入れた海老のチリソースを拭き出しそうになるのでありましたが、それはかろうじて堪えて上目で那間裕子女史の顔を窺うのでありました。那間裕子女史は頑治さんが見せた少しのたじろぎを面白がるように、悪戯っぽい目付きをして見せるのでありました。
「それは、均目君から聞いたのですか?」
 均目さんには何かの折に、自分には付き合っている彼女が居て、それは大学時代の同級生だと云う辺り程度は話しているのでありました。他にそんな事を打ち明け話しした人は会社の中には居ないのでありますから、均目さんから那間裕子女史に齎された情報と云う以外には考えられないのでありました。ま、別に均目さんに口止めした訳ではなかったのではありましたが、那間裕子女史からその事を云われて驚いたのであります。
「その子は大学院で考古学をやっているんだってね。女子としては少し変わり種かな」
 頑治さんの質問には応えないで那間裕子女史は話しを先に進めるのでありました。
「まあ、そのようにも云えるしそのようでないとも云えるし」
 頑治さんは曖昧に受け応えて海老をもう一尾口に放り込むのでありました。
「お付き合いして、もう長いの?」
「いや、四年生の時からですので、そうでもないですね」
「切っ掛けは唐目君が声を掛けたの?」
「いや、向こうから声を掛けてきたんです」
「ずっと前から目を付けられていたのかしら」
「いや、偶然再会してそれで、・・・」
「再会?」
 那間裕子女史は小首を傾げるのでありました。「前に見知っていた子?」
「故郷の中学校時代の同級生です」
「へえ、中学校時代の同級生と偶然東京で再会したの」
「ええまあ、そう云う事になります」
 何やらこれ以上那間裕子女史の質問ペースに乗せられると、根掘り葉掘りあれこれと話しをさせられそうで頑治さんは少しげんなりと云った心持ちになるのでありました。
「同じ大学の学生でしょう?」
「・・・・・・」
 頑治さんは小さな頷きだけを返すのでありました。
「再会するまでお互いに同じ大学に通っている事を知らなかったの?」
「・・・・・・」
 頑治さんは一回目よりも振幅を小さくして億劫そうに頷くのでありました。
「高校は違う高校だったの?」
 頑治さんはもう頷かないで、那間裕子女史の質問が聞こえなかったような素振りで、皿に最後に残った一尾の海老に箸を出すのでありました。
(続)
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