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あなたのとりこ 218 [あなたのとりこ 8 創作]

「と云う事は、那間さんと均目さんは労働量強化になるけど、片久那制作部長は労働量軽減と云う事になるんですかね、その目論見に依れば」
 頑治さんは均目さんの真似ではないけれど、顎を手指で撫でるのでありました。
「まあ、そんな風にも云えるかもね」
 那間裕子女史が成程と云った面持ちをして頷くのでありました。「でも確かに、これ迄は片久那さんに他の社員全員がすっかり頼り切りでいたのは事実ね。片久那さんとしてはもういい加減夫々自律的に仕事してくれと云ったところかもね」
「社員が皆、仕事に於いて独り立ちしろと云う事ね」
 均目さんが反省点として、大いに覚えがあるような面持ちで呟くのでありました。
「独り立ちって云う自立もそうだけど、何でも片久那さんを当てにしないで、夫々自分の判断、自分の思慮の上で主体的に仕事をしてくれと云う事」
「皆さんは今迄、そんな風に仕事をしてこなかったと云う反省があるのですかね?」
 頑治さんが別に批判的な物腰と云う訳ではなくて、全く素朴な疑問、と云った声色で、話し掛ける相手としては那間裕子女史とも均目さんともつかないような目線で訊くのでありました。まあ、敬語を使っているのでありますから、どちらかと云うと那間裕子女史の方を対象として質問していると云った色が濃い事になるのでありましょうが。
「慎に面目無い」
 那間裕子女史ではなく、先に均目さんが、冗談口調を演じてはいるけれど、半分くらいは本心と云った様子で頭を掻いて頑治さんにお辞儀して見せるのでありました。
「確かに、片久那さんにかなりな部分寄りかかった仕事振りではあったかな」
 先んじて均目さんが曲がりなりにも正直な告白を口に上せたせいか、那間裕子女史も何時も条件反射的にする、自分への批判に対して挑みかかるような対抗心をここでは表に出さないで、少々しめやかな表情で頷くのでありました。
「まあ、那間さんも均目さんも、片久那制作部長に比べれば実務経験が未だありませんからね。それは仕方が無いかもしれませんよ」
 頑治さんが優しい言葉を掛けるのでありました。
「と云っても、均目君は未だ入社して二年とちょっとだけど、あたしはもう四年も経つんだものね。経験不足とか云う話しじゃないかもしれないわ。片久那さんにしたって、会社に激変があって、制作部を任されたのは入社して二年半くらいの頃らしいから」
「片久那制作部長が何事に於いても人に任せるより、自分の手で総てやった方が早いと云うスタイルの人のようだし、他の社員がなかなか仕事に習熟出来ないのは、その辺も影響しているんじゃないですかね、まあ、良くは判りませんけど」
 頑治さんはあくまで那間裕子女史と均目さんに寛容な発言をするのでありました。
「それは、反省も込めて云うけど、云い訳にはならないと思うわ」
  那間裕子女史はどうした按配かあくまでもしおらしいのでありました。
「確かに数か月で業務仕事の効率化や、倉庫の整理整頓や美化を劇的に成し遂げた唐目君に比べれば、恥じ入るばかりだね、俺としても」
(続)
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