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あなたのとりこ 214 [あなたのとりこ 8 創作]

「山尾さんは処遇変更を受け入れると思う?」
「片久那制作部長にこれから縷々説得されて、結局受け入れるんじゃないかな。それに結婚と云う大切な私事をすぐ目の前に控えているから、ここで色々微妙な立場に追い込まれたり、最悪の場合会社を辞めたりはしたくないだろうしなあ。まあ、実は既に、営業部への配置転換を受け入れる心算になって居酒屋に同行したのかも知れないし」
「何となく気の毒な気がするなあ」
 頑治さんは山尾主任に同情するのでありました。
「タイミングと云う点で最悪だよな」
 均目さんが頷くのでありました。
「山尾さんの結婚式は何時だっけ?」
 那間裕子女史が均目さんに首を傾げて見せるのでありました。
「ええと、確か一月二十日だったかな。前日の十九日に空路グアムに飛んで、二十三日迄新婚旅行旁滞在する、とか聞いたけど」
「ふうん。信州の軽井沢でもハワイでもなくて、グアムか」
 那間裕子女史はその辺の事情を何も知らないようでありました。山尾主任にそれを態々訊く機会も無かったし、訊く気も大して無かったのでありましょう。
「そうするとグアムに五日間程滞在、と云う事だ」
 頑治さんが指を折って日数を数えながら云うのでありました。
「そうなるかな。毎年の事だけど二月に入ったら、年度替わりまで仕事が急に忙しくなるから、一月の内にと云う当初の目論見だったんだろうけど、ここに来て営業部に移るとなると、結果として目算が外れたと云う事になるかなあ」
「毎年一月の後半から忙しくなるわよ」
「ま、それはそうだけど」
「この時期に一週間会社を休むと云うのも、ちょっと弁えが足りないんじゃないかしら」
 那間裕子女史は無愛想な顔で批判的な事を口走るのでありました。
「まあ、相手の人がこの時期しか都合が好くなかったのかも知れないし」
 均目さんが山尾主任を擁護するのでありました。
「良く片久那制作部長が許したわね」
「だって慶事だもの」
「幾ら慶事だろうと、四月以降にするとか時期を考えるべきだと思うわよ」
 那間裕子女史は山尾主任に対してあくまでつれないのでありました。
「山尾主任はそう云う考えだったとしても、向こうさんの事情もある事だし」
「この時期に山尾さんが一週間も休む事で、こっちに累が及ぶのは叶わないわ」
「仕事の分担があるから那間さんはそう心配する事も無いんじゃないの」
「ま、それはそうか。それに、こうなったら、山尾さんの仕事がこっちに回って来るのは、もう山尾さんのせいじゃなくなる訳だしね」
 那間裕子女史は不機嫌顔ながらも頷いて見せるのでありました。
(続)
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