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あなたのとりこ 170 [あなたのとりこ 6 創作]

 山尾主任がその均目さんの言に少し不愉快そうな顔をするのでありました。
「それはそうです」
 横瀬氏の方は均目さんのような意見に大いに配慮しているところを見せるためか、静穏な顔で頷くのでありました。「それは貴方達がこれから決める事ですから、私は口を差し挟みません。今日は請われて単にアドバイスにしゃしゃり出て来ただけですからね」
 横瀬氏のこの辺の腰の引き方なんと云うものは、身熟しが臨機応変で老獪なのか、それとも徒に敬遠されないようにするためのこの場に於ける単なる見え透いた控え目なのか、頑治さんは俄に判断に迷うのでありました。この横瀬氏と云う仁が食えるか食えないかの判断は、未だもう少し先と云う事になるでありましょうか。
「しかし、ボーナス支給日までもう日も無いんだから、ここは春闘睨みの組合結成、と云う事に速やかに決めた方が良いんじゃないかな」
 山尾主任がやや焦ったように云い添えるのでありました。
「でもそれは少し強引でしょう。組合結成と云う件はここで唐突にではなく、もう少し時間をかけて話し合って決めた方が良いんじゃないですかね」
 均目さんが異を唱えるのでありました。
「でも均目君、さっきから何度も云っているけど、春闘迄時間が無いんだぜ」
 山尾主任が少し焦りを強めて云い募るのでありました。
「確かに、組合を結成するのが今の段階では一番妥当な選択かも知れないわね」
 那間裕子女史がふと言葉を漏らすのでありました。
「俺もどんな手を遣ってでも土師尾営業部長に吠え面かかしてやりたいなあ、何とか」
 袁満さんも遠慮がちに私憤混じりのような賛同を表明するのでありました。
「唐目君はどうかな?」
 山尾主任が頑治さんの顔を見るのでありました。
「まあ、俺は新参者で今度のボーナスに関しては蚊帳の外に居ますから、無責任のようですが殊更の意見は無いです。でも皆さんが組合結成と決めるのなら俺も従いますよ」
 明言を濁した立場表明回避の、ある意味で卑怯な云い草でありあますが、明言しないところに頑治さんの消極的な気配を汲んで欲しいものでありましたけれど。
「そうすると組合結成賛成が三に棄権が一、反対が一と云う事になるかな」
 山尾主任がそんな集計をして見せるのでありました。
「ここに居ない出雲君の意見は判らないわね」
 那間裕子女史が不在の出雲さんの存在を気遣うのでありました。
「そうだけど、出雲君が反対か棄権だとしても、賛成多数と云う事にはなる」
 山尾主任がここでもやや強引な断定をするのでありました。
「まあ、俺もはっきり反対と云う訳じゃないけど。・・・」
 均目さんが立場をぐらつかせるのでありました。
「と云う事は絶対反対じゃないんだね」
 山尾主任は何とか組合結成をここで決めてしまいたいような意気込みであります。
(続)
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