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あなたのとりこ 162 [あなたのとりこ 6 創作]

「へえ、そう。頑ちゃんの初ボーナスね」
 夕美さんの声が弾むのでありました。
「まあ、そう云う事になるんだけど。・・・」
「だったら丁度良いじゃない。初ボーナスを祝って何処かでお食事しましょうよ」
「いやまあ、ちゃんとボーナスが出るのなら、ここが一番日頃の恩返しの総決算、と云う感じで得意になって驕るんだけどね」
「と云う事は、ちゃんと出ないの?」
 夕美さんの声の勢いが萎むのでありました。
「その可能性が大かな」
「そう云えばそんな事云っていたわね。業績不振で冬のボーナスが出ないかもって」
「今、従業員の間で、その件について色々騒然としているんだよ」
「ふうん。色々大変なんだ」
「尤も何時もの年通りに支給されたとしても、俺は算定される就業日数が少ないから皆と同じ割合では貰えないらしいけどね」
 これは前に均目さんから聞かされた事で、何でも四月から九月迄の六か月が暮れのボーナスの算定対象月数と云う事であります。頑治さんの就業日数はその期間の内にほんの少し掛かる程度でありましたから、依って慎に微々たる額になる計算であります。均目さんもそうであったし他の従業員もそう云う按配であったと云う話しでありました。
「でもまあ良いじゃない。恩返しの総決算は後日と云う事して、初ボーナスには違いないんだから、ちょっとお祝いしても罰は当たらないわよ、屹度」
「と云う事は、ひょっとしたら罰が当たるかも知れないと云う事か」
「大丈夫。そんなちっちゃな事で罰を当ててやろうとか、秘かに頑ちゃんを付け狙っている程、神様は暇じゃないと思うから」
「それはそうだ。俺もそんなに神様から目の敵にされるような覚えは、今のところ無いと思うもの。でもまあ、お祝いの件は置くとしても、支給日当日はひょっとしたら対策を話し合うために、仕事が終わってから従業員の会合があるかも知れないから、矢張りその日は外して置いた方が無難かも知れないな。逢えないのは残念なんだけどね」
「ああそう」
 夕美さんの声には大袈裟な落胆の響きが籠るのでありました。
「何とも申し訳無い」
 頑治さんは思わずお辞儀をしているのでありました。
「でも良いわ。それなら土曜日に行く」
「土曜日なら大丈夫だと思うよ」
「尤も昼間は学校と千葉の市川に行く用事があるから、その帰りに寄るわ」
「市川と云うと、遺跡かな?」
「そう。多分夕方の六時頃になると思うわ」
「夕方六時ね。ちゃんと家に居るようにするよ」
(続)
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