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あなたのとりこ 153 [あなたのとりこ 6 創作]

 山尾主任が不興気に呟くのでありました。「均目君はどんな云い方をすれば、俺達の心情が上手く向うに伝わると思うんだい?」
「そうですねえ、・・・」
 均目さんは腕組みして片方の手指で自分の顎を撫でながら暫し考える風の顔をするのでありました。ここでようやく、話しは本筋に帰って来たようであります。

 均目さんは少し体を前に乗り出すのでありました。
「ボーナスも生活給の一部として予め見込んでいる訳だから、それが無いとなると生活に支障をきたす、とかはどうです?」
「それも、年が越せない、と云うのと訴えに於いて、然して変わらない気がするわね」
 那間裕子女史が首を傾げるのでありました。
「じゃあ、ボーナスが少ないと俺達の士気に関わるぞ、と云うのは?」
「それ、脅しになる?」
 那間裕子女史が先程よりもう少し大きく首を傾げるのでありました。「それなら夏のボーナスに向けて、もっと奮起しろと云われたらそれ迄のような気がするけど」
「その奮起する意気込みのためにも、冬のボーナスをもう少し奮発してくれ、と訴えている訳だよ、この科白の謂わんとするところは」
「要するに、さっきの可処分所得の領域で出せ出せないの話しをしても、結局こちらには切迫感が無いんじゃないかしら。当面無い袖は振れないし、精々仕事に励んで夏のボーナスを楽しみにしていろと云われて、それでもう言葉に窮するような気がするのよ」
「まあ確かに、あれこれ文句を云い募ってもそれは夏のボーナスの時に考慮する、と押し切られてそれでお仕舞いと云う感じもするか」
 山尾主任が口を挟むのでありました。
「あたし達の単なる不満表明に終わって、それで増額があるとは思えないわね」
 那間裕子女史は、今度はさっき傾げたのと同じ振幅程度で項垂れるのでありました。
「なら結局、ボーナスが出ない事、出ても少額である事に甘んじるしかないと云う事で話しは終わるなあ。態々今日集まった我々の結論がそれで良いのかねえ」
 均目さんが鼻を鳴らすのでありました。
「こうなりゃ、ストライキでもやるか」
 山尾主任が云うと袁満さんが怯んで及び腰を見せるのでありました。
「え、ストライキ、ですか。・・・」
「労働者の権利だ」
 山尾主任は袁満さんの顔に少し強い眼光を向けるのでありました。
「しかしストライキを打つならそのための、例えば労働組合か何かの我々の参集軸が無いと、単なる個々人のサボタージュと云う意味しか持たなくなるんじゃないかな。そうなるとその分、賃金から差し引かれてそれではいお仕舞い、と云う無意味な行動で終わる」
 均目さんが瞑目して首を傾げながら山尾主任の意見に疑問を呈するのでありました。
(続)
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