あなたのとりこ 141 [あなたのとりこ 5 創作]
それから何か急に云いそびれた事を思い出したらしく、均目さんはまたすぐにそそくさと頑治さんの横に椅子ごと移動して来るのでありました。
「ああご免、云い忘れていたけど、・・・」
頑治さんはその均目さんの言葉を受けて、電話に伸ばしていた手をその儘受話器の上に載せた形で均目さんの方に顔を向けるのでありました。
「所々に急行とか特急とか書いてあるのがあるだろう」
そう云われて頑治さんはコピーに目を落とすのでありました。確かに路線の横の空白に小さな字で特急とか急行とかの文字があり、幾つかの丸を直線で結んであるのでありました。丸印はそこに記してある駅名から、つまり特急とか急行の停車駅でありましょう。
「ああ確かに。この所要時間も向うの広報に訊けって事だな」
「そう。その通り」
頑治さんがすぐに察したので、均目さんは少し気抜けしたような顔をして頷くのでありました。これは益々面倒な小難しい仕事になりそうであります。
「判ったよ。それも忘れずにちゃんと訊くよ」
頑治さんのその返答で均目さんは再び頑治さんの横から離れるのでありました。
取り掛かりは比較的運行路線数の少ない鉄道会社で、総営業距離の短いものを選んで電話を掛けるのでありました。先方の代表番号に路線の駅間所要時間を総て教えて貰いたいのだがと云うと、速やかに広報課に回してくれるのでありました。
「こちらは贈答社と申しますが、ちょっとお時間を取らせて仕舞いますが、総ての駅間所要時間をご教示頂きたくて電話をさせて頂いたのです」
頑治さんが受話器に向かってなるべく丁重にそう申し出るとこの最初に選んだ会社の、偶々電話に出た男の広報課社員は別に面倒そうな物腰でもなく、寧ろ謹慎な語調でどうぞと承諾するのでありました。無作為に最初に選んだ先から邪険にあしらわれたら幸先が良くないと考えていたものだから、頑治さんは内心胸を撫で下ろすのでありました。
向こうもこの手の問い合わせは時々あるようで慣れた口調で到って手際良く、先ずは本線の始発駅からの各駅間所要時間を一々、しかもこちらの書き記す手の速さに気を遣いながら教えてくれるのでありました。のっけからなかなか親切な人に当たったようであります。聞き洩らす事無く集中しながら所要時間を聞き書きしながら、頑治さんはこの先もこういう調子でスムーズにこの仕事が進行する事を願うのでありました。
各駅間所要時間の後は特急と急行、それに快速電車の停車駅間所要時間も変わらぬ丁重さで教えてくれた後、更に親切にも相互乗り入れしている地下鉄の終着駅迄の時間も教えてくれるのでありました。その律義さと云うのかサービス精神に頑治さんは大いに感激するのでありました。この鉄道会社の床しい社風が偲ばれると云うものであります。
時間にしたら二十分程の電話でありましたか。頑治さんは受話器を持った儘お辞儀等しながら最大級の謝意を表して電話を切るのでありました。
「ほう、なかなか堂に入った電話っ振りだったなあ。大したものだ」
(続)
「ああご免、云い忘れていたけど、・・・」
頑治さんはその均目さんの言葉を受けて、電話に伸ばしていた手をその儘受話器の上に載せた形で均目さんの方に顔を向けるのでありました。
「所々に急行とか特急とか書いてあるのがあるだろう」
そう云われて頑治さんはコピーに目を落とすのでありました。確かに路線の横の空白に小さな字で特急とか急行とかの文字があり、幾つかの丸を直線で結んであるのでありました。丸印はそこに記してある駅名から、つまり特急とか急行の停車駅でありましょう。
「ああ確かに。この所要時間も向うの広報に訊けって事だな」
「そう。その通り」
頑治さんがすぐに察したので、均目さんは少し気抜けしたような顔をして頷くのでありました。これは益々面倒な小難しい仕事になりそうであります。
「判ったよ。それも忘れずにちゃんと訊くよ」
頑治さんのその返答で均目さんは再び頑治さんの横から離れるのでありました。
取り掛かりは比較的運行路線数の少ない鉄道会社で、総営業距離の短いものを選んで電話を掛けるのでありました。先方の代表番号に路線の駅間所要時間を総て教えて貰いたいのだがと云うと、速やかに広報課に回してくれるのでありました。
「こちらは贈答社と申しますが、ちょっとお時間を取らせて仕舞いますが、総ての駅間所要時間をご教示頂きたくて電話をさせて頂いたのです」
頑治さんが受話器に向かってなるべく丁重にそう申し出るとこの最初に選んだ会社の、偶々電話に出た男の広報課社員は別に面倒そうな物腰でもなく、寧ろ謹慎な語調でどうぞと承諾するのでありました。無作為に最初に選んだ先から邪険にあしらわれたら幸先が良くないと考えていたものだから、頑治さんは内心胸を撫で下ろすのでありました。
向こうもこの手の問い合わせは時々あるようで慣れた口調で到って手際良く、先ずは本線の始発駅からの各駅間所要時間を一々、しかもこちらの書き記す手の速さに気を遣いながら教えてくれるのでありました。のっけからなかなか親切な人に当たったようであります。聞き洩らす事無く集中しながら所要時間を聞き書きしながら、頑治さんはこの先もこういう調子でスムーズにこの仕事が進行する事を願うのでありました。
各駅間所要時間の後は特急と急行、それに快速電車の停車駅間所要時間も変わらぬ丁重さで教えてくれた後、更に親切にも相互乗り入れしている地下鉄の終着駅迄の時間も教えてくれるのでありました。その律義さと云うのかサービス精神に頑治さんは大いに感激するのでありました。この鉄道会社の床しい社風が偲ばれると云うものであります。
時間にしたら二十分程の電話でありましたか。頑治さんは受話器を持った儘お辞儀等しながら最大級の謝意を表して電話を切るのでありました。
「ほう、なかなか堂に入った電話っ振りだったなあ。大したものだ」
(続)