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あなたのとりこ 135 [あなたのとりこ 5 創作]

「出ないと判った時点で土師尾営業部長につめ寄るか。まあ、その辺は色んなケースを想定して予め申し合わせして置く必要はあるけど」
「じゃあ、その申し合わせ事項を早速決めておかなければならないと云う事になるかな。もう十二月十日までそんなに日が無いんだから」
「いやいや、十二月十日を待ってそれから行動するのは俺は遅いと思うな」
 山尾主任が割り込むのでありました。「その前にこちらの意向を何らかの形で明示しておけば、片久那制作部長の交渉の側面援護にもなるし」
「そうよ。待ってから動くんじゃなくて、こっちが先手を取って動かないと社長や土師尾営業部長にプレッシャーをかけられないわよ」
 那間裕子女史が珍しく山尾主任に同調するのでありました。この二人は全く息が合わない同士だと頑治さんは思っていたのでありましたが。
「ええと、抑々のところを確認して置きたいんだけど」
 那間裕子女史の言葉が終わるのを待って、今迄暫く黙っていた袁満さんが申し訳無さそうに割り込むのでありました。「ボーナスが出ないのなら、俺達はあっさりその儘黙っていないで、一致して必ずそれに抗議すると云うのはもう決定しているんだよね」
「当たり前じゃない。今頃何を呑気な事云っているの」
 那間裕子女史が声を荒げて、袁満さんの頭を押さえ付けるような物腰で云うのでありました。袁満さんはその迫力に思わず怖じてか、たじろいだように表情を引き攣らせるのでありました。どうした訳か横に居た出雲さんまでが同じような及び腰を見せるのは、これは同じ仕事をしている先輩と一心同体である事を表意する所作でありましょうか。
「いや、その、そこを最初に確認して置かないと、何かモヤモヤした儘その先の話しをする事になるから、とか考えたんですよ、俺は」
 袁満さんはしどろもどろに那間裕子女史に対して弁明するのでありました。
「黙っていたら暮れのボーナス無支給の前例を作る事になるわ。そうなれば業績不振を理由に今後も出ない事だって有り得るでしょう。暮れのボーナスどころか夏のボーナスもカットされる恐れもあるし。そんな事になったらまともに生活していけなくなるわ」
「いや、話しを前に進める上で手順の問題は大事だよ」
 均目さんが那間裕子女史の口を遮るのでありました。「無精して有耶無耶にしていると、後で、元々そんな事は決めていないだの何だのと、話しが紛糾して前に進まなくなるのは困ると、袁満さんはそこを指摘したかったんだよ。そうですよねえ、袁満さん」
 均目さんの助け舟に袁満さんは諸手を泳がせて縋り付くのでありました。
「そうそう、まあ、そう云う事」
 袁満さんはようやく表情を緩めるのでありました。横の一心同体の出雲さんも頬の辺りに漲っていた緊張を解くのでありました。

 山尾主任が少し棘々しくなった場を収めるように提案するのでありました。
「じゃあ、順を追って一個々々決を取ろう」
(続)
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