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あなたのとりこ 133 [あなたのとりこ 5 創作]

「そりゃないよなあ。すっかり反則だ」
 袁満さんが均目さんの言に舌打ちするのでありました。「でも確かに考えられる」
「若し慰労金名目だとしても、あの二人は俺達より格段に多いだろうしね」
 山尾主任も小さな舌打ちの音を立てるのでありました。
「でも少しは義侠心のある片久那制作部長が、そんな醜い事を企むかしら」
 那間裕子女史がちょっぴり片久那制作部長の肩を持つのでありました。
「でも、自分の取り分となると片久那制作部長もなかなかシビアな人だぜ」
 山尾主任はその辺は懐疑的なようであります。
「それは云えてる」
 袁満さんが明快に同調するのでありました。「ああ見えて相当なケチだしね」
「我々従業員がボーナスの支給に口を挟む事は出来ないのでしょうかね?」
 今まで無関心そうに黙っていた出雲さんが云うのでありました。
「まあ、口を挟めるような権限はここに居る誰も持っていないかな」
 山尾主任が力なく笑うのでありました。「労働組合がある訳でもないし」
「そうか、労働組合と云う手もあるわね」
 那間裕子女史が左の掌を右の拳の小指側の縁で打つ真似をするのでありました。何とも古めかしい、考えが閃めいた事を表現する所作であります。今時そんな手真似を使う人は滅多に居ないだろうと、頑治さんは横目で見ながら秘かに思うのでありました。
「労働組合、ねえ」
 均目さんが億劫そうに呟くのでありました。「今時流行らないでしょう」
「流行るとか流行らないとかの問題じゃなくて、社長や土師尾営業部長に対する発言権も説得力も無いあたし達が、暮れのボーナスを確保するために、唯一正当な手段としてそれを訴える有力な方法の一つではあるわよ、確かに」
「でも、何となく臆病な小物連中が群れて、立場の弱さを逆手に取って得意気に柄にも無い尊大な顔をするような、全くイカさないイメージがあるんだよなあ、俺には」
「何、それ」
 那間裕子女史が均目さんを蔑むような目で見るのでありました。「そんなつまらないイメージに拘って、ボーナスと云う実質をフイにする方がもっと格好の悪い愚かさと云うものじゃないの。そう云う風には均目君は考えられないの」
「いやまあ、そう云われると、お説ご尤もと云うしかないけど。・・・」
 均目さんは那間裕子女史の全くの正論らしきにたじろいで、気圧されたように弱々し気に言葉の尻を曖昧に窄めるのでありました。

 ここに来て山尾主任もこの、自分で大した意も無く口にした労働組合と云う言葉に少なからず自分で魅せられたようでありました。
「でも確かに、賃金とか待遇とかの面で社長や土師尾営業部長の遣りたい放題になっていると云うのも、正常な労使関係と云えないような気がする」
(続)
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