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あなたのとりこ 122 [あなたのとりこ 5 創作]

「唐目君は均目君と同い歳だったわね?」
「ええそうです」
 頑治さんもやや上体を前のめりにして、挟まれた均目さんの顎の前で那間裕子女史と言葉の遣り取りをするのでありました。均目さんは二人の邪魔にならないようにと慮ってなのか、二人とは逆に上体を後ろに逸らせるようにしているのでありました。
「この前の昼休みに二人で喫茶店から出て来るところを目撃したわ。仲良さそうね」
「同い歳の気安さから、均目君には色々懇意にして貰っています」
 ここ迄会話したところで、間に均目さんを挟んで言葉を交わすのが煩わしくなったのか、那間裕子女史は舌打ちしながら立ち上がって均目さんを自分が座っていた席に押し遣り、均目さんと頑治さんの間に尻を落とすのでありました。頑治さんと均目さんで那間裕子女史を挟むような位置取りになるのでありました。
 頑治さんは那間裕子女史のグラスにビールを注ぎ入れるのでありました。
「那間さんは色々多趣味な方だと聞いていますが」
 那間裕子女史の返杯を受けながら頑治さんが話し掛けるのでありました。「ジャズダンスとか、フラメンコギターだとか、水泳とか、スワヒリ語の勉強とか」
「均目君に聞いたの?」
「ええそうです」
 頑治さんが頷くと那間裕子女史は均目さんの方に顔を向けるのでありました。
「何か余計な事とか云っていないでしょうね?」
 そう問われた均目さんは顔と、グラスを持っていない方の掌をヒラヒラと何度か横に振って見せるのでありました。
「勿論それ以外の事は云っていませんよ。第一、他の事とかはあんまり知らないし」
「そう? それなら良いけど」
 那間裕子女史は目を均目さんから離してグラスを傾けるのでありました。「酒癖が悪いだとか、結構な男好きだとか、遅刻の常習犯だとか、期限通りに仕事を終わらせた例がないとか、料理とか掃除とか大凡女らしい仕事が出来ないだとか、いつも約束した時間に三十分以上は遅れるヤツだとか、最近男に裏切られて落ち込んでいるとか」
「そんな事俺が喋る訳がないじゃないですか。第一最近男に裏切られたとか、そんな那間さんの個人的な事なんか俺は大して知らないんだし」
 均目さんはもう一度顔と掌を振って見せるのでありましたが、那間裕子女史はビールグラスを傾斜させる作業に忙しく、均目さんの抗弁なんか上の空で全く聞いてはいないようでありました。女史の空いたグラスに頑治さんがまたビールを注ぎ足すのでありました。成程その飲みっ振りからすると大酒飲みであるのは確かな事のようであります
「スワヒリ語の勉強をやっているんですか?」
 頑治さんが訊くのでありました。
「そう。三鷹に在る外国語学校に通っているの」
「仙川駅の近くに在るアジア・アフリカ語学院ですか?」
(続)
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