SSブログ

あなたのとりこ 726 [あなたのとりこ 25 創作]

「矢張り社長の目論見は会社清算なんですかね?」
「いやもう、疑いなく、はっきりその方向に向かって進んでいるみたいだよ」
 袁満さんの電話の向こうで顔を顰める様子が見えるようでありました。
「その手始めとして甲斐さんを解雇したと云う事ですか?」
「甲斐さんだけじゃなくて、日比さんも辞めさせられるようだし」
「日比さんも、ですか?」
「そう。日比さんも会社に残る心算で居たのに、社長の気持ちは会社清算に向かってまっしぐら、と云う感じだろうしね」
 袁満さんの語調は少し皮肉めいた風を帯びるのでありました。
「じゃあ、土師尾常務はどうなるのですかね?」
「あの人は抜け目がないから、紙商事の方で雇ってもらう事になっているんだろう」
「それは、甲斐さんの情報ですかね?」
「そう。甲斐さんが会社を辞める前の日、甲斐さんに家に食事に誘われて、そこで聞いたんだよ。甲斐さんは社長室に呼ばれて、社長からそんなような事を直接聞いたらしい」
「そう云えば組合が出来た時に、甲斐さん一人が社長室に呼ばれて、賃金を据え置くのを承知したら、その儘会社で働いて貰っても良い、なんて提案されたんでしたね」
 頑治さんは前にあったいざこざを思い出すのでありました。その提案の理不尽さと卑劣さによって、結局甲斐さんも結局組合に入る事になったのでありましたか。
「前の時は土師尾常務も同席していたけど、今度は社長一人だったみたいだけど」
「今度は社長の独断で、土師尾常務は無関係だったんですかね?」
「土師尾常務とは既に会社清算を秘かに打ち合わせしていて、その時点ではもう紙商事で雇ってもらう約束が纏まっていたんじゃないかな」
「成程ね。それでもう態々土師尾常務の同席は必要なかった、と云う事ですかね」
「土師尾常務にしても、自分の事以外には何の興味もないだろうからね。まあ、最後の最後迄相変わらずの無責任役員振りと云うところさ」
 袁満さんは鼻を鳴らしてして見せるのでありました。
「で、甲斐さんは一方的に解雇を云い渡されるだけで、別に抵抗と云うのか、ゴネたり、或いは条件闘争的な事はしなかったんですかね?」
「組合も既にないから、受け入れるしかないだろう。一人だけじゃ無力だし」
「今回は社長の思う壺、と云う事になりますかね」
「まあ、そんなところだろうね」
「日比さんも解雇の憂き目に遭うようですけど、日比さんはどうするんですかね?」
 甲斐計子女史の日比課長の、いやらしそうな目、に対する警戒心から、二人共闘する訳にもいかないのは頑治さんも想像出来るのでありました。
「どうするのかね。その辺は良く判らないけど、その内俺から日比さんに電話でも入れて探ってみよう、とは思っているんだけど」
「まあ、日比課長も社長の意向には逆らえないでしょうけれど」
(続)
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。