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あなたのとりこ 719 [あなたのとりこ 24 創作]

「ここのところ、全く食事を受け付けなくなっているのよ」
「そんなんで体は大丈夫なの?」
「大丈夫な筈がないから、ほぼ毎日病院に行って栄養注射を打って貰っているわ。もうぼちぼち再入院って事になるんじゃないかしら」
「何だか大変そうだなあ。そう云う事なら尚更俺としては、夕美の家に泊めて貰うのは遠慮しなくっちゃいけないじゃないか」
「そうね。まあそう云う訳だから、ご免ね」
「夕美が謝る事は別にないけど」
 頑治さんは本気で済まなさそうにしている夕美さんに笑って見せるのでありました。
「それでね、・・・」
 夕美さんは俯いて卓上の自分のコーヒーカップに目を落とすのでありました。「母の具合がそう云う感じだから、頑ちゃんが東京に戻る時にあたしも一緒について行くって事だったけど、それはとても出来そうにないのよ」
「ああ、それはそうだろうな。そう云う折にお母さんの元を離れる訳にはいかないか」
「まあ、すぐにどうこうと云う事じゃないと思うんだけど、病院通いの母を置いてあたしだけのんびり東京に遊びに行くのは気が引けるし、気持ちも乗らないし」
「それはその通りだよ」
 頑治さんは夕美さんを気遣うように云うのでありました。
「ご免ね、約束していたのに」
「いや、こう云う場合だし、ちょっとがっかりだけどそれは仕方がないし、そんなに気にする事はないよ。お母さんの病気が快方に向かう事を俺も祈っているよ」
「有難う。そう云ってくれると救われるわ」
夕美さんは頑治さんに小さくお辞儀するのでありました。
「そうなったら俺がこっちに居る間だけは、二人で大いに楽しもうぜ」
「そうね。こう云う事なら頑ちゃんがこっちに居る時に、あたしも夏休みを取ればよかったわ。二週間前迄に夏休みの申請をするんだけど、もう手遅れだしね」
「まあここで悔やんでばかりいてもつまらないから、明日からの一週間分の予定を立てようぜ。夕美は土日は丸々休みなんだっけ?」
「ううん。七月と八月は日曜日と月曜日が休みなの。月曜日は博物館の休館日で、もう一日の休みはローテーションで決まるのよ」
「ふうん。公務員だからきっちり土日が休みと決まっている訳じゃないんだ」
「土日は学校が休みだから、寧ろ小中学生や、高校生の事を考えて、博物館とか図書館とか、それに体育館なんかは土日は開館しているのよ」
「ふうん。市民サービスと云う観点からかな」
「そうね。市や県の方針でもあるし」
「お役所も最近は、なかなかにサービスとかちゃんと考えている訳だ」
 頑治さんは感心するように腕組みして二三度頷いて見せるのでありました。
(続)
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