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あなたのとりこ 718 [あなたのとりこ 24 創作]

「長い不況で飲食店が大分減ったって、この前テレビで云っていたけど」
「でも人出も前と同じで大して変わっていないようだし」
「そうでもないわよ。あたし達が高校生の頃の賑わい比べると、確かに何となく活気がなくなっているみたいな気がするわ。まあ、このアーケードだけじゃなくて街全体から、どことなく活気が失せたような感じがするわ」
「そうかなあ」
 頑治さんは行き交う人の波を見るのでありました。頑治さんには今一つ、印象としてこの街の様子が以前とそんなに変わっていないように見えるのでありました。
「あたし達が大学に入る頃が、丁度この街が衰退期に入る辺りね」
「しかし駅前なんか、前よりも見違えるように綺麗になった感じだけど」
「駅とその周辺は大規模改修で綺麗になったけど、駅からこのアーケードに続く間の街並みは、シャッターを下ろした店舗が増えたわよ。気付かなかった?」
「そう云われてみれば、そうかなあ」
 頑治さんは曖昧に応えるのでありました。
 ところで考えてみれば頑治さんは、この街を夕美さんと一緒に肩を寄せ合って歩くのは初めての事なのでありました。高校生の時までは、夕美さんとは殆ど口もきかない間柄なのでありましたし。だからその新鮮さに竟々茫となって仕舞って、街の変貌ぶりなんかには殆ど注意がいかなかったのと云うのが実際でありましたか。そんな具合の頑治さんでありましたから、横に居る夕美さんしか目に捉えていないのでありました。
 二人はアーケードから小道を折れた処にある、小さな喫茶店にぶらりと立ち寄るのでありました。そこは頑治さんが子供の頃からある店で、小学生の頃に親と数回、高校生になってからは一二度友達と入った事もあるのでありました。
「今日は何処に泊まるの?」
「叔母の処だよ。三日間くらいは泊めてくれると思うよ」
「その後はどうするの?」
「離島からこの街に来ていた高校の同級生がいて、そいつがその儘こっちにアパートを借りて住んで大学に通っているから、そいつの処に厄介になる心算だよ」
「帰る実家がないと云うのは、なかなか大変ね」
「いやあ、それはもう云っても仕様がない事だし」
「何ならあたしの処に来て貰っても構わない、と云いたいところだけど、お母さんの事があるから、申し訳ないけどちょっと無理かな」
 夕美さんはさも済まなさそうに目を伏せるのでありました。
「いやあ、俺が突然泊りに行くと云うのは、夕美にしても困るだろう。先の事としてはそれもあるかも知れないけど、今回は俺としても辞退しておくよ」
「まあその方が良いわね。頑ちゃんの事を未だちゃんと両親に話していないものね」
 夕美さんは頑治さんに弱々しい微笑をするのでありました。
「お母さんの具合は、どうなの?」
(続)
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