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あなたのとりこ 714 [あなたのとりこ 24 創作]

「いやまあ、ちょっと」
 均目さんは何となく誤魔化すような云い草をするのでありました。
「片久那さんのところに仕事の斡旋でも頼みに行くの?」
 那間裕子女史に何気ない風に突然そう訊かれて、均目さんは迂闊にも少しおどおどするような気配を見せるのでありました。これは那間裕子女史の誘導的な質問に、竟うっかり嵌って仕舞ったと云う事になるのでありましょうか。
 那間裕子女史は均目さんが皆に知られないところで片久那制作部長と繋がっていて、その意を受けて会社の中で色々と、今度の組合の解散なんかに関しても画策なんぞを行っていたと踏んでいるのでありました。それに均目さんの新たな就職先も、片久那制作部長の力添えでもう決まっているのかも知れないと疑っているのでありました。
 これは那間裕子女史のなかなかに鋭い勘のなせる業で、別にこれと云った証拠なんぞは何もないようでありましたが、しかしまあ大凡のところで見事に当たっているのでありました。この辺は、そんじょそこらの隅には置けない侮り難い人であると、頑治さんは秘かに舌を巻いて、ある種の畏怖の念をも抱いているのでありました。
 那間裕子女史に気付かれないように、均目さんは秘かに頑治さんの顔を上目で見るのでありました。どうやら那間裕子女史の今の、均目さんに対する揶揄を思わせる言は、頑治さんからの情報に因ると考えたのでありましょう。頑治さんが片久那制作部長と均目さんの繋がりを、屹度那間裕子女史に教えたに違いないと推察した模様であります。
 これは頑治さんにすれば全く謂れのない嫌疑と云うものでありまして、当然均目さんは知る筈もない事ではありますが、頑治さんは那間裕子女史にその辺を仄めかしたりは決してしていないのでありました。頑治さんとしては自分に不当な疑いがかけられた事に何とも遣る瀬ない思い等抱くのでありましたが、この陰鬱は那間裕子女史と均目さんの両人が居るこの場に於いては、辻褄上、晴らそうにも晴らせないものなのでありました。
 後日そう云う機会があればでありますが、均目さんには説明して誤解を解く事も出来そうでありますが、まあ、実際のところこの均目さんの嫌疑なんぞは、どうでも構わない事のようにも思われるのでありました。誤解されているとしても、敢えてその弁明を何としてもしなくてはいけない事とは、実際のところもう考えないのでありました。
 まあ、那間裕子女史の方には、後々の面倒を考えて、何も知らないと云う態度に徹する必要はありますか。慎に後ろめたい事ではありますけれど。・・・
 また後日判明した事ではありますが、袁満さんと甲斐計子女史は矢張りこの後二人だけの食事会を予定していたのでありました。この二人の急接近に関しては頑治さんが果たした役割、つまり夫々の電話に於いて夫々に、二人が付き合うべきだとまんまと唆した功績なんと云うものは、なかなかに大なるものがあったと云う事になるのでありましたか。

 結局お別れ会もなく、仕事先(?)から直帰するのであろう土師尾常務への挨拶も、もうその日はとっくに社長室から居なくなっていた社長へのお別れの言もなく、四人は会社から去るのでありました。実にあっさりした最終日と云う感じでありましたか。
(続)
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