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あなたのとりこ 713 [あなたのとりこ 24 創作]

「まあ兎に角、ちょっと、今日は拙いんだよ」
 袁満さんは日比課長の、デートがあるかどうか、という問いに対しては言を曖昧にしながら、都合が悪いとのみ云い張るのでありました。
「俺も実はこれから用事があるんだ」
 均目さんも恐縮の態で酒宴の参加を断るのでありました。
「何だ、均目君もダメなのかい?」
「ええ、申し訳ありませんが」
「あたしも遠慮しておくわ」
 甲斐計子女史も拒否の意を表するのでありました。酒宴の後で日比課長に、この後二人だけで何処かで飲もうとかと誘われるのを、大いに警戒しているのだろうかと頑治さんは推測するのでありました。しかし皆で一緒に飲むのならそんな心配もなかろうし、また若し誘われたとしても、頑治さんに護衛を頼めば良い事であります。まあ、そうなったら今度は頑治さんにではなく、袁満さんに頼むのが筋と云うものでありましょうけれど。
 と、ここで頑治さんははたと気付くのでありました。袁満さんと甲斐計子女史は、これから二人で食事に行く約束をしているのかも知れないのであります。つまり、デートであります。だからこの二人は日比課長の提案に乗ろうとしないのであります。と云う事は、日比課長の冗談口調のからかいは、実は正鵠を射ていたことになる訳であります。まあ、これはあくまでも頑治さんのふと閃いた思い付きでしかないのでありますが。
「じゃあ俺の提案に乗るのは那間さんと唐目君の二人だけか」
 日比課長はがっかりしたように云うのでありました。
「そう云う事なら、あたしも遠慮しておこうかな」
 那間裕子女史がどこか白けたような云い草をするのでありました。酒宴となれば場合に依らずすぐにおいそれと乗って来る筈の那間裕子女史が躊躇するのは、これは慎に異例であると頑治さんは意外に思うのでありました。まあ、相手が日比課長と、この前気まずい思いをさせられた頑治さんとあっては、意気も消沈と云ったところでありましょうか。
「と云う事は、唐目君だけか」
 日比課長は嘆息するのでありました。
「それじゃあまあ、折角の日比課長の提案ですが、酒宴はまた後の、皆が好都合な時に改めて、と云う事にして、今日は止めておきましょうかね」
 頑治さんは申し訳なさそうに日比課長に頭を下げるのでありました。
「その方が無難ね」
 那間裕子女史もすぐに頑治さんに同意するのでありました。
「じゃあまあ、皆の都合が悪いと云うのなら仕方がないけど」
 日比課長が如何にも残念そうにここで提案を引っ込めるのでありました。まあ、頑治さんと二人だけで飲むのは、日比課長としてもそれ程楽しくもないでありましょうし。
「均目君はこれから何の用事があるの?」
 那間裕子女史が均目さんの方を見るのでありました。
(続)
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