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あなたのとりこ 712 [あなたのとりこ 24 創作]

 頑治さんの贈答社での社員生活は終わりを迎えるのでありましたし、そこに於ける種々の人間関係も恐らくは同時に悉く終焉するのでありましょうが、袁満さんと甲斐計子女史の新たな関係が恐らくこれから始まるのであります。これは喜ぶべき事でありますし、向後も末永く、且つ目出度く続く事を祈るのみであります。
 終わりの最中にあってもそこから新たな始まりが生まれると云うのは、大袈裟に云えば連綿と続く人たるものの理でありますか。いやはや自分は、柄にもない言葉をよくもまあ遣うものだと、頑治さんはここで一人自嘲の笑いをするのでありました。

 愈々退職の日でありますが、その日迄にするべき残務処理はほぼ済ませていたから、終業時間を迎えたらすぐに件の四人は会社を後にするのでありました。別に会社主催で慰労会とかサヨナラ会を催してくれる予定もなかったのでありましたし、土師尾常務はこの日も午後から外回りに出ていて、終業時間になっても一向に帰って来る気配がないところを見ると、直帰するとの電話をもう間もなくかけてくるのでありましょう。
 日比課長は退職する四人とけじめの挨拶を交わそうと終業時間前に帰社しているのでありました。甲斐計子女史は別れを残念がってか、四人に近所の花屋で買ったと思しきちょっとした惜別の贈り物なんぞをくれるのでありました。四人は恐縮の態で、日比課長からの別れの言葉と甲斐計子女史からの小さな花束を受け取るのでありました。
「それにしても薄情なものだな」
 日比課長が舌打ちするのでありました。「ご大層な店じゃなくても、近くの居酒屋でも構わないから、ご苦労さんの宴席を会社で持ってくれてもよさそうなものだけどな」
「いやあ、社長や土師尾常務と一緒じゃ酒も不味くなるから別に良いよ」
 袁満さんが片手を横に振って見せるのでありました。
「それにしても、今迄会社を盛り立ててくれた社員に無礼じゃないか」
「会社を盛り立ててくれたなんて、あの二人が思っている訳がない」
 袁満さんは鼻を鳴らすのでありました。
「それならこれから、この六人でどこかに飲みに行くか」
 日比課長が提案するのでありました。
「それは良いわね」
 那間裕子女史が早速賛意を示すのでありました。「唐目君も袁満君も、それに均目君も、別に異存はないわよね?」
「俺は大丈夫ですよ」
 最初に、唐目君も、と云われた手前、と云う事もないのでありますが、頑治さんが最初に返事をするのでありました。
「俺はちょっと、これから用があるから遠慮するよ」
 袁満さんがここで同調を躊躇うのでありました。
「何だい、まさかデートがあるとか云わないだろう?」
 日比課長がからかうような調子で訊くのでありました。
(続)
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