SSブログ

あなたのとりこ 711 [あなたのとりこ 24 創作]

 頑治さんは断言するのでありました。「それは全く大した問題ではないですね」
「でもあたしは何だか、妙に不自然な気がして仕方がないんだけど」
 甲斐計子女史は弱気な事を云うのでありましたが、頑治さんに大した問題ではないと断じられて、電話の向こうで少しはホッとしたような気配も窺わせるのでありました。
「しかしこうして相談を持ち掛けてくるところを見ると、甲斐さんとしては歳の差が問題じゃないとなれば、袁満さんと付き合う気持ちは充分あると云う事ですよね?」
「そうね、まあ、袁満君はのんびり屋で何だか頼りないところもあるけど、・・・」
「頼りないところもあるけど、でも、だからと云って嫌いではないと?」
「人の好さと愛嬌は認めるわ。男としての色気はあんまり感じないけど、・・・」
「色気は感じないけど、でも、だからと云って嫌いではないと?」
「まあ、嫌いだって事はないわね、それは多分。・・・」
 何だか歯切れは悪いものの、これは満更でもないと云う告白でありますか。
「袁満さんも甲斐さんとの歳の差の事は、充分考えたと思いますよ」
「それはそうよね。当たり前よね」
「しかし充分考えた上で、それでも付き合ってくれと云ったんですから、それは袁満さんの真意だし真心だし、袁満さんを嫌いじゃないとなれば、甲斐さんがその真心に報いてあげるのはごく自然な経緯、と云う事になるんじゃないですかね」
「そうかしら、ねえ。・・・」
「若しかしたら、袁満さんじゃもの足りないですかね?」
「うーん、そう感じるところもあったけど、組合の委員長として頑張っていたし、社長や土師尾さんに対してもそんなにもの怖じしないで、一生懸命に反論したりしているところを見たら、まあ、意外と男気はあるし、頼りになるかなとは思ったわ」
 これはなかなか好印象であります。
「じゃあ、袁満さんの申し出を受けるのに、何も支障はないじゃないですか」
「そう云う事になるけど、でも、ねえ。・・・」
「ここは勇気を出して、承諾の返事をするべきだと思いますが」
「でも袁満君は本当にあたしなんかで良いのかしら」
「甲斐さんが魅力的だからこそ、交際の申し込みをしたに決まっているじゃないですか。袁満さんに何か別の変な思惑でもあると考えるとしたら、それは気の毒ですよ」
「勿論袁満君に限って、そんなものはないと思うけど」
「じゃあ、承諾するのに問題はないということですよね」
「そうねえ。・・・」
 甲斐計子女史はここに及んで未だ及び腰を見せるのでありました。しかし頑治さんは自分の説得が、ほぼ成功しているだろうと云う確信を持つのでありました。
「まあ、今後の幸運を心から祈っています」
 甲斐計子女史との電話を終えてから、頑治さんはどこかしら仄々とした心地になるのでありました。一種の解放感と云っても良いでありましょうか。
(続)
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。