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あなたのとりこ 709 [あなたのとりこ 24 創作]

「要するに何か甲斐さんに、大事な事を云いたいような雰囲気ですかね?」
「そうね、まあ、そんな感じ」
「で、何やらの大事な話しが、実際にあったんですか?」
 こここそ、肝心なところであります。
「うん、それがね、・・・」
 甲斐計子女史は少し云い淀むのでありました。頑治さんとしては大凡察しは付くのでありましたが、心急くのを抑えて甲斐計子女史が喋り出すのを待つのでありました。ほんの少し沈黙した後に、甲斐計子女史は続けるのでありました。
「うん、それがね、先ずあたしに、誰か付き合っている特定の人がいるのか、とか聞いてくるのよ。そんなの、いる訳がないじゃない。若しいるのなら、この歳まで一人でブラブラしている筈がないじゃないの、ねえ、そうでしょう?」
「はあ、まあ、良く判りませんけど」
 そう訊かれても、それはそうですねと明快に云うのも何やら憚られるようで、頑治さんは有耶無耶にこう応えるのでありました。
「第一、態々改めて確かめなくても、普段の会話の気配からも、そんな人なんかいない事は良く判っている筈じゃないの」
「まあ、慎重派の袁満さんとしては、一応確かめてみたんじゃないですか」
「そうかも知れないけど、ちょっと会話として間抜けじゃない」
「まあ確かに、野暮ですかね、見ように依っては」
 甲斐計子女史ご指摘の如く、その質問は無粋でちょっとピントを外した質問だと云う感じがしない事もないですが、袁満さんらしいと云えばその通りでありますけれど。
「で、そんな事なんか袁満君に云う必要があるの、なんて少し怒ったように云ったら、袁満君はおどおどして、いや別に云いたくないのなら云わなくても構わないとか、口に含んだコーヒーを吹き出しそうにしながら、慌てて手を横に振って謝るのよ」
 甲斐計子女史のその時の描写は、そんな袁満さんに嫌気を催して云っていると云う感じではなくて、どちらかと云うと好意を感じさせるような云い草でありましたか。
「で、甲斐さんは明言しなかったのですか?」
「まあ、そんな人なんかいないって、結局ちゃんと応えたけど」
「成程。で、その疑問が解消した袁満さんは、その後どうしたんですか?」
「だったらちょっと真面目に、俺と付き合ってみてくれないかって、もじもじしながら目も合わせないで、如何にも云いにくそうに下を向いた儘で云うのよ」
「ふうん、成程」
 頑治さんは、でかした、と袁満さんに心の中で喝采を送るのでありました。「で、甲斐さんとしてはそれに何と応えたのですか?」
「どう応えたものか判らなかったから、ちょっと黙ったの」
 これを拒否だと袁満さんが早とちりしない事を祈るのみであります。
「それでお仕舞い、と云う事ではなかったんでしょう?」
(続)
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