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あなたのとりこ 703 [あなたのとりこ 24 創作]

「俺に対する当て付けとして、と云う事かい?」
「当て付けと云うよりは均目君に対する、レトリックとしての訴え、と云うのか、もっと云えば、求愛、と云うのか、まあそんな感じの。・・・」
「求愛?」
 均目さんは首を傾げるのでありました。
「那間さんなりの、均目君を標的とした愛情表現としての行為だったんじゃないかな」
「云っている事がよく判らないな」
 均目さんは腕組みして頑治さんから視線を外すのでありました。
「要はそう云う不埒な事を態とする事によって、那間さんは何となく関係がギクシャクし出した均目君に、もう一度自分の方を振り向いて貰いたかったんだと思うんだよ」
「しかし那間さんが唐目君の家に酒に酔って押しがける事を俺は知らなかったし、仄めかされてもいなかったんだから、あの那間さんの行為に俺は無関係な筈だ」
「そこが那間さんの心の動きの、ユニークなところだよ」
 頑治さんは何やら自分の云っている事が、如何にも不自然で込み入り過ぎていて、明らかに作り事めいていると、云いながら思うのでありました。つまり均目さんに対する誤魔化しでありますか。那間裕子女史の気持ちが頑治さんではなく均目さんの方をターゲットにしているのなら、数日前に頑治さんの家を再度訪ねては来ないでありましょうし。
「何だか唐目君は、那間さんから逃げる口実として、俺をここで無理矢理持ち出してきているような感じがするなあ。無茶な論の立て方は何の説得力もないぜ」
 均目さんは苦笑するのでありました。
「いやあ、那間さんの思いは、まだ均目君に向いていると思うけどなあ」
 もうこれは、頑治さんの引っ込みがつかないための苦しい戯れ言と云わざるを得ないでありましょう。それを均目さんにちゃんと見透かされているのは、もう判っているのでありましたし、これ以上、ああだこうだと下らない屁理屈を捏ね続けるのは、いやはや寧ろ屈辱的であり、見苦しいだけと云うものでありますか。

 紅茶を飲み終えた均目さんが、手持無沙汰にテーブルの上を人差し指と中指と薬指を使ってリズミカルに連打しているのでありました。
「コーヒーでもお代わりするかい?」
 頑治さんが訊くのでありました。
「いや、もう一杯飲む程時間はないだろう」
 均目さんは腕時計を見ながら云うのでありました。それから頑治さんの顔を、何事か云いた気にじっと見据えるのでありました。
「何か云いたい事があるのかな?」
 頑治さんはヒョイと眉を上げて見せるのでありました。
「片久那制作部長が、唐目君にも自分の今の仕事を手伝って貰いたいようだよ」
 均目さんは頑治さんの顔を見据えた儘でそう云うのでありました。
(続)
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