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あなたのとりこ 702 [あなたのとりこ 24 創作]

「そんなに本格的にではないけど」
「まあ、着々と、会社を辞めた後の生計の道を実行している訳だ」
「いや、当初はそんなに賃金を貰える訳がないから、生活は今より苦しくなるかな」
「それでも、今後の方途が未だ決まっていない俺よりはマシだ」
「片久那制作部長に付いていけば、将来は取り敢えず間違いないと思うよ。あれこれ心配する事もない訳じゃないけど、今はそう考えるしかないかな」
「まあ、重畳と云うところじゃないか」
 頑治さんは湯気の向こうの均目さんの顔を薄っすら見ながら、泡立った生クリームの下に隠れているコーヒーを一口啜るのでありました。
「那間さんとはその後どうなんだい?」
 頑治さんはそれとなく訊いてみるのでありました。
「もう最近はすっかり付き合いはないよ」
 これは、那間裕子女史から聞いたのと同じような応えでしました。
「もう仲を解消した、と云う事かな?」
「はっきりとけじめを付けたような感じじゃないけど、何となく互いにもう連絡もしなくなったし、それでも別に心騒ぐ訳じゃなし、この儘フェードアウトしていく感じかな」
「フェードアウト、ねえ」
 頑治さんは何となく均目さんの言葉を繰り返すのでありました。「で、今はそのフェードアウトの途中と云う事かな?」
「いやもう殆ど、収束段階と云う事になるだろうな。お互いに、電話連絡どころか、近況伺いもしないし、それに別段寂しさも感じなくなったし」
「何だかやけにあっけない感じだな」
「今更、未練タラタラ、と云う感じで全くはないよ」
 均目さんは紅茶を飲み干すのでありました。「それより那間さんは実は唐目君に気があるんだろうな。だから俺が見限られた訳だ」
「いや、そんなんじゃないんじゃないかな」
「だってこの前、那間さんはグデングデンに酔っぱらって突然唐目君を訊ねたんだし、それは酒の勢いを借りて、唐目君に自分の思いを伝えようとした所行に他ならないし。まあ結局は唐目君が持て余して、俺が彼女を迎えに行ったんだけど。しかし、つまりは俺より唐目君の方に、那間さんの思いは移ったって事に違いないだろう」
「いやあ、そうとばかりも云えないだろう」
 頑治さんは数日前に那間裕子女史が家に来た事を思い浮かべるのでありましたが、それはここでは口にしないのでありました。
「そう考えないと事の辻褄が合わないと思うけどね」
「そうじゃなくて、実は那間さんは均目君との仲が、意に反してギクシャクしだしたのをくよくよ思い悩んでいて、それをなんとかしようとして、ああ云う傍から見れば妙な行動に打って出たんじゃないのかな。俺はそんな気がするけど」
(続)
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