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あなたのとりこ 688 [あなたのとりこ 23 創作]

「均目君について、唐目君が何か知っているかと思ってね」
 那間裕子女史もビールを一口飲むのでありました。
「と云うのは?」
「会社を辞めた後、もう既に働き口とか決まっているのかとか」
「あれ、もう那間さんはそれを知っているのかと思っていましたけど」
 頑治さんは首を傾げるのでありました。
「ううん、何だか新しく出来る出版の会社にコネがある、とかは聞いていたけど」
「具体的に、その出版社の名前とか会社の来歴とかは知らないのですか?」
「均目君の言に依れば、色んな会社の社史とかを編集したり、商業雑誌の記事を書いたりするプロダクションみたいな会社らしいんだけど、それ以上はよく知らないわ」
「その説明は均目君本人に聞いたのですね?」
「そう。・・・まあ、そうなんだけど、何だかはっきりとは話したくない気配だったから、あんまり根掘り葉掘り訊き質したりはしなかったわ」
「ああそうですか。成程ね」
 頑治さんは顎を擦りながら曖昧に頷くのでありました。「那間さんは均目君の向後の身の振り方に関して、均目君自身からもうすっかり話を聞いているのだとばかり思っていたんですが、実はそうではなかったんですね」
「どうしてそんな風に思ったの?」
「いやまあ、何となく。・・・」
 那間裕子女史にどうしてと訊かれて、考えて見たら迂闊にも別に何の確証も無く、本当にただ何となくそうなのだろうと頑治さんは勝手に思い做していたのでありました。
「その辺、唐目君は具体的に何か聞いていないの?」
「いやまあ、自分もあんまり具体的な事は聞いていないのですが」
 頑治さんは均目さんと片久那制作部長の間で交わされていた、片久那制作部長が興した会社に均目さんが採用されると云う約束を、ここで那間裕子女史に話して良いものかどうか迷ったので、あやふやに恍けておく方が無難だと考えてそう応えるのでありました。
「ああそう。均目君は唐目君には、はっきりとした事を話しているのかと思っただけど、どうやらあたしの目算違いだったようね」
 那間裕子女史は落胆の溜息を吐くのでありました。
「ところで那間さんと均目君は、ええと、その後、別にどうと云う事もなく上手くいっているとばかり思っていたんですが、そうでもなかったのですか?」
 これは少し無遠慮な質問かと頑治さんは云いながら思うのでありました。
「その後、と云うのは、つまりあたしが、酔い潰れて夜中にここに不躾に遣って来たあの日以後、と云う事よね?」
 那間裕子女史は含羞を少し含んだ笑いを頬に浮かべて訊き質すのでありました。
「ええまあ、あの日のその後、です」
 頑治さんも何となく居心地の悪そうな笑みを眉宇に湛えるのでありました。
(続)
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