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あなたのとりこ 677 [あなたのとりこ 23 創作]

「あの政党の事はもう良いわよ」
 那間裕子女史が白けたような口調で云うのでありました。
 ここで何となく宴会は盛り上がらない雰囲気になるのでありました。依って誰云うともなくその日はこれにて解散と相成るのでありました。
 居酒屋を出て均目さんとは地下鉄神保町駅の入り口辺りで別れるのでありました。袁満さんは丸ノ内線に乗って池袋方面に帰るし那間裕子女史は中央線に乗ると云うので、頑治さんを含めた三人はそぞろ歩きに錦華公園の横の坂を通り抜けて、JRの御茶ノ水駅の方に向かってくねくねと脇道を上って行くのでありました。
 那間裕子女史をJRの駅で見送り、御茶ノ水橋を渡って袁満さんは外苑通りの横断歩道付近で別れて、頑治さんは一人自分のアパートに向かってゆっくり歩を進めるのでありました。湿り気を帯びた生暖かい夜風を妙に心地悪く感じるのでありました。
 まあ考えてみれば均目さんが云うように、全総連がこうもあっさりと贈答社の組合解散を認めてくれるとは思われないのでありました。この後も何か色々面倒なすったもんだがありそうであります。頑治さんは一人溜息を吐くのでありました。

 次の日の朝、全総連の横瀬氏から袁満さんに電話がかかって来るのでありました。先ず甲斐計子女史に代われと云う指示があったようで、袁満さんは受話器を耳から外して話口を手で押さえて、甲斐計子女史を呼ぶのでありました。
「全総連の横瀬さんから、ちょっと甲斐さんに訊きたい事があるってよ」
 そう云われても甲斐計子女史の方としては、横瀬氏とは特に何の話しもないでありましょうから、女史は自分の顔を自分で指差して怪訝な表情をして、尻込みするように首を竦めて手を何度も横に振って、電話を代わる意志は全く見せないのでありました。
「何であたしに話しがあるのよ?」
 そう訊かれてあんまり察しの良い方ではない袁満さんは、そう云えばどうしてだろうと考えてもう一度受話器を耳に押し当てて、横瀬氏に要件を訊き質すのでありました。
「組合の存続の件で、会社に残る組合員である甲斐さんに確認したいんだそうだよ」
「そりゃあ会社に残るけど、組合を続ける気なんかないわよ、あたしは」
 甲斐計子女史は憮然とそう云うのでありました。
「その辺の確認を直接したいんだろう、横瀬さんは」
「別に出る気はないわよ、そんな電話に。適当に云っておいてよ」
「いやまあ、そんなに変な警戒をして避けなくても、甲斐さん一人で組合を遣る気があるのか、それともここで組合とは一切関わらない心算なのかを、甲斐さんの口から直接、聞き質したいだけなんじゃないかな横瀬さんとしては」
「そんな事決まっているじゃない。嫌よあたしは、組合とこれ以上関わるのは」
「だから、その辺を直接聞きたいんじゃないの」
「直接も何もあたしは出ないからね。袁満君が適当に云っておいてよ」
 これはもう取り付く島もない云い草でありました。
(続)
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