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あなたのとりこ 676 [あなたのとりこ 23 創作]

 那間裕子女史としては頑治さんと均目さんの会話がちっとも面白くないし、鼻に付いてきたものだから水を差してやろうと云う魂胆で、そう云う真似をしたのだろう頑治さんは思うのでありました。それに袁満さんも如何にも退屈そうにしているのでありました。
「ま、均目君が云う程、あの政党の力は日本の各界に及んでなんかいないと云うのが実際のところで、例え政治的工作が色んな所に浸透しているとしても、矢張り全体から見ればそんなに大したものになっていない、と云うのが掛け値なしのところじゃないかな。だからと云って俺も均目君度同様、あの政党はあんまり好きにはなれないけど」
 頑治さんはこの話しをここら辺で切上げようと思ってそう云うのでありました。
「俺はもっと深刻に、あの政党の害悪を考えているけど」
 均目さんも未だ頑治さんの意見には同意しかねると云うところを表明して、ビールをグイと飲み干して、読点を打つようにグラスをテーブルの上に置くのでありました。
「それにしてもあんなにあっさりと、ウチの会社の組合解散を全総連が受け入れてくれるとは思ってもいなかったわ。もっと手古摺るんじゃないかと考えていたけど」
 那間裕子女史が頑治さんと均目さんの話しが一段落したと踏んで、新しくきた日本酒の熱燗徳利の胴を如何にも熱そうに持って、頑治さんに差し出しながら早速話頭を変えるのでありました。頑治さんは自分の猪口を先ず飲み干してそれを受けるのでありました。
「未だ受け入れられたとは限らないよ」
 均目さんが手酌で自分のグラスにビールを注ぎ入れるのでありました。
「あたしはそう受け取ったけど?」
「そんなにもの分かりの良い政党じゃないと云う事だよ」
「政党じゃなくて、全総連の話しよ」
 那間裕子女史が未だ均目さんが先程の頑治さんとの話しに一区切りを付けていないようだと思って、少しうんざりした表情をして見せるのでありました。
「まあ、全総連はあの政党と表向きは別だと装っているけど、殆ど一体だからね」
「それはどうでも良いけど」
 那間裕子女史はぞんざいな云い草をして、均目さんのくどさに少しの不快感を表明するのでありました。「あたし達みたいな、労働運動と云うものにそれ程熱心でもない態度をとる意識の低い連中なんかは、この際だからバッサリ切って仕舞った方が清々すると考えたのかしらね。まあ、そう云う事でも別にちっとも構わないけど」
「そうでもないんじゃないかと思いますけど」
 袁満さんが首を横に振るのでありました。「確かに俺達は全総連に相談を持ち掛けた当初から、組合結成に際しても頓珍漢な事ばかりしていると思われていたかも知れませんけど、しかしそれでも手取り足取り、熱心に助力してくれたじゃないですか」
「それは、つまりあの人達の、仕事、だからじゃないの」
「まあ、ああ云う組織はオルグと云う点に於いて兎に角熱心だし、それに選挙の時には、あの政党に一票入れてくれるに違いないと云う読みもあっただろうし」
 均目さんがそう云って鼻を鳴らすのでありました。
(続)
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